国産材コラム

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「朴訥の論」コラムの記事一覧

リレーインタビュー

朴訥の論

コープ自然派奈良の新事務所建築で、奈良の木を一部床板に使いたいという相談があり、T林業さんを紹介していただいた。

 

当日同席の中に下北山村の方がおられ、懐かしさに当時の情景が蘇った。以前「木族」で「山からの便り」と題し、林業関係のリレーインタビューを掲載していた。

 

平成5年(1993年)8月から平成21年3月迄の16年間、総勢188名の林業家に地域の状況や取り組み等、話を伺っている。4,50年かけ育てたスギ、ヒノキが売れないことで山が疲弊している現実を、林業家が直接語ることで、より生活者の理解が深まると考えたからだ。

 

林業家から紹介を受け次々に取材したが、当初は地域の名士が多く、窮しているという空気が中々伝わらず、途中出来るだけ中小規模の林家を取材するように心がけた。

 

T林業さん達に掲載のコピーを見せたところ残念ながら亡くなられた方もいて、Tさん曰く「世代交代が多く、もう一回リレーインタビューしてもらわんと」と返された。

「いやぁ体力が…」と応えたが、「もう一回リレーインタビューを」が頭から離れず、記事を読み返してみた。

 

 

下北山村への取材は平成16年(2004年)12月、山口高久さんの「山間の山では陽の昇る所と陽の落ちる所に木は植えなんだ。村に少しでも長く陽が射すように…」で始まっている。

 

「ここはまさにへき地。林業の後継者はゼロに近い。山だらけやのにどないするんやろ?と思いながら、自分も山じゃ食っていけんからと、外へ出てしまった。やっぱり子供のことを考えるとね」

 

山の手入れは森林組合に任せるしかないのが現状。しかし森林組合の合併が進み、組合と山主とのつながりが薄くなるのが心配と懸念しておられたが、その後どうなっているだろうか。

 

奈良県では1ヘクタールに6千~8千本の苗木を植え、生長に応じて選木されている。

 

「そうやって手入れしている時は良かったが、林業家のどこかに雨が降ったら木は太るって考えがあって、その日の仕事が出来ればいいわって気持ちがあったんじゃないかな」

 

「植物も人間も、全てを手に入れ、満たされ過ぎると子孫を残さなくなる。何十年か前に戻ったら、山問題も少子化問題も解決する気がする。自然に逆らったら負けや」と結ばれている。今一度、下北山村を訪ねてみたい。

 

(「木族」2021年12月号より)

山林は私有と言えども

朴訥の論

現在、日本の森林所有者の87%は保有面積が10ha未満と小規模の所有者で占められ、持ち主の分からない山林は28%にのぼる。相続などで山林を引き継いだものの森林への関心は薄く、細分化された森林は益々低迷に拍車をかけることになる。

 

83%の市町村が管内の民有林の手入れ不足を認識しているとのこと。結果、災害防止や森林の公益的機能の維持にも支障をきたし、近年頻繁に発生している土砂災害などがそれを物語っているようだ。

 

国は森林経営を円滑にするために「森林経営管理法」を制定し、平成31年4月からスタートさせた。適切に管理が出来ない森林の経営管理を能力のある林業経営者に集約化すると同時に、集約できない森林の経営管理を市町村が行うことで、林業の活性を図るというものだ。

 

 

数年前に50haの山林を相続し、放置していることに悩んだ方から相談を受けたことがある。森林組合や市町村に相談したが埒が明かず、悩んだ末に民間の不動産業者に500万円で手離したと伺ったが、その先その山林がどうなったかは知りようもない。今更ながら、あと数年手放すことを我慢していればと悔やまれる。

 

ウッドショックの煽りで国産材が高騰し、それを見越した盗伐なども増えていると聞く。一生懸命育てた農作物を収穫寸前に盗まれる悔しさは聞くだけでも腹立たしいが、世代を超えて受け継がれ、蟻が積み上げるように50有余年育てた森林が、ある日突然、伐採され持ち去られるという悔しさ、虚しさはいかばかりであろう。

 

長い間、国産材の価格は外材価格の影響を受け、コントロールされてきたように思う。需要と供給の関係であることは百も承知しているが…。またここにきて外部の経済事情により価格が煽られるのは国産材を支持してきたものにとっては悩ましい限りだ。

 

運動を始めた頃、国産材は大根より安いと言っていたが、いずれにせよ産地と消費側の双方の事情が分かるだけにつらいものがある。山側にすれば木が売れず長く疲弊した時期を耐え、一転降って沸いたかの様な市場に振り回され動転していることであろう。

 

経済性のみを優先し皆伐(全て伐採すること)が増え、再造林しない山も増えていると聞くが、森林はたとえ個人のものであっても地域を度外視して考えられるものではない。せめて、次世代にバトンを渡せる思慮は持ちたいものだ。

 

(「木族」2021年10月号より)

マンションどうする

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ゲリラ豪雨と灼熱の熱波で、コロナの退散を願うばかりですが、皆様にはいかがお過ごしでしょうか。

 

「この期間〇日~〇日まで、車庫のメンテナンスのため車の移動を願います」という案内が郵便受けに入っていた。

 

マンションも20年を過ぎると次から次とメンテナンスが押し寄せる。築15年頃に外壁塗装の改修工事に始まり、経年劣化と共にメンテナンス工事は加速する。一般にマンションの耐用年数は50年前後と言われているが、給排水などの設備配管は30~35年とマンション本体より短く、取り換えが簡単な状況ならいいが、コンクリートの中に埋まっていれば、困難を極める。

 

自宅マンションも20年を過ぎる頃から入居者の出入りが激しくなり、知らない顔を見ることが多くなった。管理費の増額を検討する議案は抑え気味の額で決定したが、誰しも高い管理費は望まないものの先々の負担増は気になるところだ。

 

 

現在、既存マンションは590万戸あり、そのうち旧耐震基準は106万戸あると聞く。南海トラフや首都直下など巨大地震が懸念される今、耐震性不足のマンション入居者は気が気ではないだろう。

 

入居者の80%の同意があれば建て替えは可能というが、高齢者も増加し、収入も家族構成も違う世帯を取りまとめるのは並大抵のことではない。国は建て替えを促進するため高さ制限などの規制緩和を計るとしているが、建て替えに至るまでには相当の労力と時間を要する。

とりもなおさずマンションを終の棲家とするには、耐久性とメンテナンス性の向上を図るしかなさそうだ。

 

耐久性の強化と見える化を図るため1~3等級で表し、3等級を75~90年、2等級を50~60年、1等級は基準法通りとしているが、人の寿命も向上している今、せめて2世代が住み継げる耐力は保持して欲しいものだ。

 

今、マンションの居住性を求め国産材でリフォームを望む人が増えている。鉄筋コンクリートでは得られない居住性を求めてのことだろう。

 

九州大学でスギ無垢板の抗ウイルス(インフルエンザ)効果を実証した結果、新建材(樹脂建材)と比較してウイルス感染力を99.9%低下させる効果ありと公表している。

年々激化する環境の変化に対応し、酷暑を少しでも凌ぎやすくする手立てとして、杉の働きに期待するところは大きい。

 

(「木族」2021年8月号より)

コロナめ

朴訥の論

まるでミツバチがスズメバチの襲撃を受け右往左往しているようにも感じる。

 

国産材に関わって40年になるが、国産材の価格は時代の流れとともに、急激に変動することも無く、外材の価格に追随する形で変化してきたように思う。

 

ところが今年に入って木材価格の高騰が耳に入るようになり、取引先の木材産地数件から価格高騰の警鐘が鳴らされた。合板系統も販売数量に規制がかかるという。

 

業界紙によれば、コロナの感染拡大で木材需要も大幅に落ち込むと想定されていたが、いち早く行われた中国経済の再開や、アメリカの在宅生活の広がりが低金利に刺激された住宅需要を促し、コンテナ不足による流通の遅れと相まって木材不足に拍車がかかる。外材の入手が困難となれば日本の林産地へ、国産材の確保へと市場が動き、それにつれて価格も高騰する。

セミナーに以前参加されていた方から問い合わせがあった。

 

息子さんと2世帯住宅を計画中で、現在、地元のビルダーさんと工事契約を結ぶところまで進んでいる。当初、在来工法でも、2×4工法でも建てられるということだったが、ここにきて在来工法は高くなるのでやめた方が良いと言われ、それでも在来工法を押すと木材が品薄で、まして国産材は高くて手に入らない、と断られたそうだ。

 

家は国産材の在来工法でと決めておられたようで国産材住宅推進協会で何とかならないかという。出来れば協会の口利きでそのビルダーさんに国産材を回してもらえないかという状態だった。

 

 

圧倒的な木材の品薄により、日本の林産地への買いあさりなど国産材にも波及している。ところが林産地に大量の木材受注が入ったとしても、山林就労者が不足している今、急峻な山から伐採した材を簡単に出せるものではない。

 

当然従来からの取引先に材は優先されることになる。先の方には残念ながら、どの工務店さんにも取引している仕入れ先があり、日頃使い慣れている木材で、得意とする工法で施工することを勧めるしかなかった。

 

それにしてもコロナの及ぼす影響に今更ながら驚愕する。

 

「風が吹けば桶屋が儲かる」ならいいが、予期せぬ方向に波及し、どういった流れで、何にどこまで影響を及ぼすのか、先が読めないことも不安を煽る。

 

兎に角、出来ることからやるしかなさそうだ。先ずはチャッチャッと予防接種を行き渡らせて貰いたい。

 

(「木族」2021年6月号より)

山林を坪で買う不条理

朴訥の論

コロナの閉塞感がそうさせるのか、最近、里山や田舎暮らしをテーマにした映像がテレビでよく紹介されている。

 

「山を買いませんか」

 

山林を宅地の様に坪いくらで販売する。購入した人も宅地感覚で500坪という広い敷地に夢を託す。わずか50万円で手に入れたことに大満足し、仲間たちと木々を伐採しキャンプを楽しめる広さを確保する。ツリーハウスにバーベキューにと街で出来ない遊びを満喫する。コロナ禍を気にせず家族や仲間で楽しむには人里離れた山の中ということだろうか。

 

 

また、投資として立木の価値を判断し、一山持っておけば、木は年々成長し10年20年後には間違いなく大儲けが出来ると購買意欲をそそるが…。売買契約さえ成立すれば、何の問題もないのだろうか。

 

知る限りでは、誰の手も汚ささず素人にお金を産ませてくれるほど簡単なものではない。台風も来れば豪雪も降る、手入れを怠れば崩れもする。そう簡単にWin・Winにはしてくれない。簡単にお金を産んでくれるのであれば山林を手離す人などいない。

 

いま、山林の活用法としてレクリエーションに目が向けられているが、一抹の不安は残る。

 

今年2月に発生した栃木県の山林火災は自衛隊のヘリコプターによる放水を嘲笑うかのように燃え広がり、鎮火まで23日を費やし燃え続けた。原因は釈然としないがハイカーの不始末と判断しているようだ。

 

林野庁によると、日本での山火事の発生数は1200件程だという。その原因の多くは人災によるもので、たき火が最も多く、野焼きに続いて放火やタバコによるものだそうだ。山に防犯カメラが設置されているわけでもなく、余程の注意を払わない限り山林火災は増えていくだろう。

 

山林を歩くハイカーにその山が誰の所有かなど、知る由もない。さしたる罪悪感も無くマナーの悪さが山火事を引き起こしても特定することは難しい。

 

山林を楽しむのは大いに結構、であれば最後まで責任をもって管理して欲しいものだ。都合の良い時だけ可愛がり、飽きてしまえばあっさり捨てられる犬や猫のように、知らない間に産廃のゴミで埋め尽くされていた、なんてことにならないように願いたい。

 

命の見えない山林とて同じこと、そこに多くの命を宿していることを忘れないで欲しい。

 

(「木族」2021年4月号より)

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