「暮らし下手」コラムの記事一覧
ここ数年の物価の上昇は建築業界にも大きく影響しています。現状、価格改定の通知が各メーカーから一通り届ききった所で、ここ数年で家一軒5~10%程度は価格が上がっている印象です。
その一方で、制度の改正や政府の方針により、断熱や空調設備に関わる費用の割合は今後さらに増して行きます。あまりにも低かった日本の住宅の基本性能が上がる事は望ましいのですが、断熱や空調設備のコストアップは避けられそうにありません。
じゃあどんどん家の値段も上がるし、マイホームは難しいなぁ~と諦めるのはまだ早い。わざわざ高額な空調システムやオプションを付加することもなく、温熱環境を含めた丁寧な設計を行うことで、コストを抑えて住みよい家ができるのは間違いありません。
昨年竣工した新築にはZEH性能で坪80万円台(設備もすべて込みですよ!)だったり、DIYを生かした創意工夫で1000万円台でフルリノベを実現したりと、改めて家づくりは創意工夫だなと感じています。
おかげさまでコストを抑えるノウハウも、安くても丈夫で長持ちな建材も、DIYを活用したコストダウン等経験を積むことができました。
価値あるローコストな家づくりをもう一度考え直したいと思います。
ただ安い材料を使って作るのではありません。国産材の丈夫な構造、木の温もりはそのままに、シンプルで無駄のない間取り。内装や設備についても一緒にコストを考え価格を抑える。知恵を絞り同じ方向を向いて価値あるローコストな家づくりを目指そうとお考えの方、是非お声がけください。
4月22日(土)セミナーもあるよ!
(2023年木族2月号より)
現場で余った木っ端を近所の保育園の木工教室の材料に役立ててもらう活動を始めて1年。先日、その保育園のイベントに出店する機会を頂きました。
たくさんのカンナ屑を用意して、大人にはカンナ屑で作るバラの教室、子供たちには、カンナ屑を小屋いっぱいに敷き詰めて中で遊んでもらう、カンナ屑プールを用意。おかげさまで大盛況。子供達の歓声が耳に、心地の良い疲労感が両足に残りました。
イベント後、保育園の先生に呼ばれ手渡されたのが、木工教室で遊ぶ園児からのお礼の手紙。手紙の中には、好きな色はなんですか?など可愛らしい質問に混じって
「中津さんが山から木を切ってくれるの?」
「どこで木を切ってきたの?」
「いつもは何をしているの?」
と、細やかな気づきを感じる質問が多く、感銘を受けました。
きっと木工で使っている「木」を見ているときに、この木はどこからやってきたのだろう?誰が切っているんだろう?この木を持ってくる人は何をしている人なんだろう?と疑問が生まれたのだと思います。
実はこれはとても凄いことで、ある意味子供だからこその疑問なのかもしれません。たとえば、普段生活している中で、手に触れる物、例えば、文房具や携帯電話、食べ物、そのルーツや作っている人、どんな物流の中で手元にやってくるのか、大人になると、知った気になったまま、疑問に思うことすら無いのではないでしょうか?
先ほどの質問の答えには、林業という職業があること、木にも産地があること、大工さん以外にもその木を使って家を建てる様々な職業の人がいる事を知るチャンスがあります。
木について知る機会をまだまだ作っていかなくちゃいけないなと、来年のイベントに気合を入れ直すのでした。
(2022年木族12月号より)
私の設計哲学?
人間忙しくなると配慮に欠けてしまったり言葉尻が強くなってしまったり、自分の小ささを再認識させられるよう。まだまだ修行が足りないなと反省です。
さて、事務所では建築を学ぶ学生を半年に2人ほどのペースで定期的に迎え入れて、模型づくりや現場見学を通じて建築について学んでもらう機会を提供しています。新鮮な発想や気持ちの人が事務所に出入りすると、それだけで雰囲気も明るくなるので、とても楽しみにしているイベントでもあります。
学生にとって、単に模型づくりや見学で終わってしまうのも忍びないので、必ず最後の15分、学生からの質疑に答える時間を作っているのですが、真面目な顔で「中津さんの目指す設計はどんなものですか?」と難しいことを聞いてきたりする。そんな事考えたこともないとも言えず、最近はどうかなぁ~とぼんやり考えながら言葉にしていると、少しずつ考えもまとまり、最近は「工務店設計を形にしたい」と話すようにしています。
それは、意匠性や思想だけを優先して、使い勝手や耐久性をおざなりにした家もなんだか違うし、メーカーのようにすべて規格化された家もつまらない。
工務店だからこそできる面白い家があるんじゃないかと、設計を始めてからぼんやり考えていたことが、最近、竣工した家に少し実態として残るようになってきたからです。
現場の大工さんの意見を取り入れた手摺りや、設計が意地で残した角の丸面、施主さんの暮らしが反映された窓、経済性を優先した素材選び。いろんなものが柔軟に、だれかの意見だけが特筆することなく、でも1つの哲学も持って綺麗にまとまった家。そんな家ができたらいいなぁと。
それを聞いてポカーンとした顔の学生にも、いつか伝わるほど明確な形になればいいなと思います。
(2022年木族10月号より)
【私の小さなファミリーストーリー】
父は青森県七戸出身の自他共に認める田舎者で、大学への進学で東京へ出たものの仕事が上手く行かず、人づてに大阪までやってきてついに母の勤める会社で二人は出会ったらしい。
地味な人だからお金はしっかり貯めていると思うよ、と同僚からも結婚を勧められた母だったけれど、婚約後蓋を開けてみれば、いったい何に使っているのか父には一銭の貯金も無く、父はゼロからのスタートじゃないか。と母に一言、母は泣きながら騙されたと実家に電話を入れたそう。
祖母は若い二人のことだからと理解を示していたが、祖父は厳しく、そんな田舎者に娘をやれるかっ!と、父が母の実家へ結婚の申し込みに行く日も断る気でいたらしかった。
祖父は大阪で杜氏を務めており、菜園づくりも趣味で、部屋にはお庭で採れた瓢箪で作ったお酒の入れ物がいくつも飾ってあった。結婚の挨拶に向かった父が、気まずい空気の中で、必死に話題を探そうと部屋を探して見つけたのもその瓢箪だった。
「瓢箪といえば豊臣秀吉でしょうか。彼があれだけの出世が出来たのも、ねねさんのおかげだそうで…」と得意の歴史の話に重ねて、いつか出世し、母には不自由はさせない思いである事を暗に伝えたそう。その話を聞いた祖父は、ころっと落とされてしまい、めでたく今の私まで家系図が続くことになった。
これが祖母から聞いた私の両親の思い出話で一番好きな話。先日、従妹の結婚式に出席した際ふとその話を思い出して、着物の母に「秀吉の奥さんやね。」と言うと、何を勘違いしたのか「わてが惚れた男がたまたま、、、」と極道の妻たちのセリフを披露してくれた。
いい両親の間に生まれたなと最近やっと思えるようになりました。
(「木族」2022年6月号より)
【許容応力度計算はじめました。】
住まいの新築を行うとき、その建物が法律で決められた強度がある事を示さなくてはなりません。その強度を示す方法には、一般的な2階建ての住宅の場合「壁量計算」と「許容応力度計算」の2つの方法があって、どちらを用いても大丈夫です。
「壁量計算」とは、名前の通り、地震や風の力に対して倒れないように丈夫に作られた耐力壁と呼ばれる壁の量を数えて、規定の数量以上あるかチェックする方法です。簡易で体系化された方法のため、最も広く用いられている方法です。
これに対して「許容応力度計算」は、柱、梁など、実際に加わる力の伝わり方をなぞるように、構造部材一つ一つの強度と材寸を計算により確認していきます。当然、計算量も膨大になり時間もかかります。
さて、ここでどちらが良いかと言われると、当然許容応力度計算になる訳ですが、壁量計算の家が弱くて危険という訳ではありません。大切なのは設計者がその建物の事をよく理解した上で設計できているか?そちらの方が大切に感じます。
今はソフトがあればコンピュータで誰でも簡単に許容応力度計算が行えます。知識がなくても『計算上』は丈夫な家が作れるかもしれません。また許容応力度計算は、壁量計算に比べて緻密に計算する分、余裕を見ないギリギリの設計も可能です。3階建ての木造建築は、この許容応力度計算が義務付けられていますが、掘り込みガレージ付きの3階建ての細長い建物を見ながら少し考えてしまいます。
昨年、構造設計の友人と共働し木造で大空間のある建物を実現しました。手計算で許容応力度計算をさらりとやってのける彼に構造の考え方を学びながら、1年間少しづつノウハウと自信をつけて、満を持して今年から「許容応力度計算」はじめました。強力な武器も使い手次第、よい設計士でありたいと思います。
(「木族」2022年4月号より)