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「朴訥の論」コラムの記事一覧

想いの繋がる人に譲りたい

朴訥の論

12年前に京都で家を建てたY様のご子息から、図面のコピーが欲しいという依頼があった。2年前にお父様が亡くなり、その家を売りに出したところ、すぐに買い手がつき、話がまとまったと喜ばれた。

 

当時Y様は、夫人が大阪市内で美容室を営み、ご自身の仕事も忙しく京都の家はもっぱら週末住宅として利用されていたようだ。建築計画にあたってはY様が積極的に打合せをされていた。予算内に収めるため設計者と共に頭を痛め、一階を主体に考え、二階を極めてシンプルに間仕切りを最小限に抑えた。

 

数日後、Y夫人から連絡があり、購入されるM様が京都の家を大変気に入り、建てた工務店にリフォームを依頼したいということだった。話はどう繋がるか分からない。

 

1週間後、M様が事務所に来られ家を受け継ぐ喜びを語っておられた。中1の息子さんの念願である犬が飼える事、その為のデッキが欲しい、シューズクローゼットにキッチンの棚、二階に物干し台など住み勝手に合わせたリフォームを考えておられるようだ。

 

そういえば数年前にも豊中で同じような話があった。ご長男家族と同居の為、建てた家を手放すに当たり不動産屋さんに言われたのは「特殊な家だから売れにくいかもしれません。」土壁に真壁工法は特殊に感じたようだが数日で買い手がつき、今も良いつながりを保っている。

 

長い人生にアクシデントは付きもの、当初の計画通りに行かない時もある。一生懸命に建てた住まいを手放すこともあるが、出来ることなら大切に住み継いで欲しいと願うのは当然であろう。不動産屋の話では買い手が別の人であれば解体する運命であったらしい。

 

Mさんと繋がったのも運が味方しているが、住み継ぐ人に愛されるほど幸せな家はない。その家に関わった人全てを幸せにする。

 

 

 

日本の古民家は世界一と語るのは新潟県竹所に棲むドイツ人建築家カール・ベンクスさん。ドイツで一度会った東山魁夷(日本画家)の言葉「古い家の無い町は、想い出の無い人間と同じ」を座右の銘とし、竹所の古民家を次々に改築し、過疎の村は人口と活力を取り戻しているという。

 

日本の古民家の技術は世界一であり、その技術を持つ大工が少なくなった今、古民家改修で先達の技術を学ぶチャンスが生まれる、まさに一石二鳥。

 

思いを込めて建てられ大切に住み継がれた住まいには、不思議なくらいそれぞれの想いも感情も繋がっているようだ。

 

(「木族」2018年12月号より)

山林のさだめにも似て

朴訥の論

日本の四季は多くの文化を生み誇れるものだが、年々春秋を愛でる期間が減少しているかに感じる。数年前から地殻変動の活発化が懸念されてはいたが、最近の地震の惨状は目を疑うものばかり、特に北海道胆振東地震の山の崩落映像は立ち眩みを覚える衝撃だった。

 

今年6月に起きた大阪府北部地震(M6強)で罹災した家屋の修復がまだ終わらない内に、追打ちをかけて9月に日本列島を襲った台風21号は第2室戸台風並みの威力で、樹木も家も車もなぎ倒した。

 

出入りの屋根屋さんに相談を寄せている被害相談は、地震時の200件に、台風による300件を合わせて500件に昇る。建築士事務所民家への検査依頼も35棟を超え、スタッフは応急処置のブルーシート張りに追われた。

 

 

木造住宅講座でコストやメンテナンス性を考えて、複雑な形状の屋根はやめた方が良いと伝えていたが、それを証明する結果となった。切妻屋根であれば棟瓦や平瓦に被害があっても比較的に補修はし易いのだが・・・。

 

 

台風の直撃を受けた須磨の親戚宅も被害が大きく、築43年の屋根は棟瓦も飛散し酷い雨漏りにみまわれた。形状が複雑で谷が多く、浜風による塩害か鈑金の劣化もあり葺き替えを勧めたが、子供達も独立し遠方で暮らす為、一代限りで売却することになり、屋根の修復に莫大な費用はかけたくないと言う。

 

近年の瓦屋根は耐震・台風を考慮し、様々な工夫がされているが、葺き替えには仮設足場を要し、築40年ともなれば、どっさり積まれた土と瓦を落し、屋根下地を調整したうえで新しい屋根瓦を葺く、新築と比較しても作業工程が多く、費用は増大する。入母屋であればさらに役物や装飾瓦が加算される。35件の内30%の家が同じ悩みを抱えていた。

 

日本人は家を建てるまでは一生懸命になるが建ててしまえば殆どメンテナンスをしない国民だと言われてきた。災害保険に満足な形で加入している人も少ない。

 

年々気候変動が激しく台風も巨大化する傾向にあるとすれば、日頃からのメンテナンスもさることながら、建築計画の段階からメンテナンスを考慮したデザインや素材の選択が不可欠になる。

 

百年、二百年を耐え、何代にも渡って受け継がれてきた古民家を易々と潰していいものか、古民家を負の遺産にさせないためにも愛情を込めたこまめなメンテナンスはかかせない。

 

どこか山林のさだめにも似て憂う。

 

(「木族」2018年10月号より)

猛暑…無理なく自然に向き合って

朴訥の論

西日本豪雨災害で多くの死者が出た被災地に猛暑が追い打ちをかけ、熱中症が続出していると聞く。統計によると熱中症の60%は屋内で起きている。環境省はクールビズの観点から室温を28度に設定することを奨励していたが、あくまでも目安とし体感での調整を促している。

 

断熱性能を高めれば冬季の快適性はアップするが、外気温が上がれば自ずと室温は上がるため夏季には室温を下げる工夫が外せない。自然の通風か、クーラーに頼るか、窓からの日光を遮る、打ち水などで気化熱を利用など、自分に合う方法で断熱・遮熱に取り組んでほしい。

 

 

 

断熱と言えば今も鮮明に記憶に残る家がある。

 

20年前に「できるだけ金額を押さえて欲しい。残りの人生を住宅ローンの返済だけで終わりたくない」という方がいて、自然素材を使いコストをどこまで押さえられるかに挑戦した。

 

10年前に中古住宅を購入し、子育ての過渡期を経て建て替えるという計画を実践された。居間の壁にはそれを象徴するように10年間の落書きが大胆に描かれていた。神戸の奥座敷に位置し、山林を切り開いた裏庭は時折、雉やイノシシが顔を出す。その方を理解するには現況の住いから学ぶことは多い。まず設計による経済性から切妻屋根とし、内部もごくシンプルに提案したまでは良かったが、ローコストを目指しながら、途中からはコストアップに繋がる要求が目立ち始めた。

 

浴室はモルタル仕上げに据置型のバスタブとし、裏庭に直接出られる掃出しの開口を設け、浴室のリビング側をガラスにすること等々。アップした価格の調整を計られたのか、内壁下地の石膏ボードが嫌だから筋違や断熱材が見えた状態でよい、と主張された。

 

さすがに断熱材が見えるままで完成とする勇気もなく外断熱にし、筋違が見える形で引き渡した。冬季の気温は大阪市内と比べ10度は低く、床下と壁面からの隙間風を懸念し、内壁を施工するよう説得したが受け入れられなかった。入居後、早い時期に自分で施工すると言われていたが、その後施工された様子はない。計画時、あらゆる本を読破され、それに翻弄されたようにも見受けられた。

 

昨年春、夫人から「夫が亡くなり、家を売却しました」というお便りをいただいた。20年間寒い冬を過ごされたと思うと、もっと強く推すべきだったかと後悔する。

 

自然と向き合い暮らすことは一つの夢でもあるが、無理のない程度であってほしい。住いは第三の皮膚でもあるのだから。

 

(「木族」2018年8月号より)

おもしろきこともなき世をおもしろく

朴訥の論

5年ほど前に、シニアご夫婦の家をリノベーションしたことがある。施工期間は3か月を要し、その間、地域で借家を借りて過ごしてもらうことを提案した。近くの不動産屋で対応を促すが、一向に良い返事が返ってこない。原因はご夫妻が揃って70代半ばであることだった。

 

3か月の期間限定で、建築会社が保証するといっても許可が下りず、埒が明かないまま、建築会社が部屋を借り、ひとまず3か月間移住してもらい工事を完成させた。

 

耐震だの、断熱工事だの国は促すが、高齢者の仮住まいすら探すに困難となれば、動きようもない。きけば障害者でさえ同じ対応に泣かされると聞く。

 

今、全国の空き家総数は2013年時点で820万戸も存在し、その内賃貸用は429万戸に達する(総務省)。この空き家を住宅セーフティーネットに、要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅として都道府県に登録するシステムをつくり、登録住宅の改修費用を補助する。国交省は20年度末までに登録数を17万5千戸確保したい考えだ。居住支援法人(NPO)が情報を提供し、家賃債務保証も実施するとしている。

 

その登録が昨年末あたりから各地方自治体で始まっている。出来ることなら化学物質に悩む人たちにも対応できる住宅であればなおありがたい。年月を経過した中古住宅であれば、化学物質もある程度は抜けているというもの。改修時に可能な施工配慮で補えるのであれば、それに越したことはないが、その改修がビニールクロスとフローリングのオンパレードであればなにをか云わんやだ。

 

 

要配慮者といっても一言で語れない程様々な形があり、線引きするのも難しいが、適切な判断を望みたいものだ。

 

東海道五十三次の最後の宿場町として賑わった滋賀県大津市では今も2000棟の町屋が残存するが、その10%が空き家だそうだ。大津駅周辺でもシャッター商店街が目立つ。その地域に点在する町家を再生し「宿場町構想」と位置付け、ホテル「HOTEL講(こう)大津百町」をオープンさせる。それを突破口に地域ぐるみの町おこしがスタートするようだ。

 

リーダーシップをとるのは木造戸建て住宅を通して日本建築の技を継承させたいと願う地域の工務店さんである。久々に胸躍る話に出会えた気がした。

 

「おもしろきこともなき世をおもしろく、すみなすものは心なりけり」高杉晋作の言葉が重なった。

 

(「木族」2018年6月号より)

そのコメント 違和感あり

朴訥の論

「古い家ですが両親の想いを大切に守り、維持してゆきたいと考えております。色々と目につく所はあるのですが、なるべく現状維持でと思っています。」

現在、神奈川で暮らす方から、神戸に遺されたご実家(築60年)のメンテナンスチェックを依頼された。閑静な住宅街にあり、一年に数回様子伺いに帰る程度のため、周りからは手放すことを薦められるがそんな気になれないと話す。

 

父親から亡くなる直前に懇願をされたのは「この実家を残して欲しい」だった。今暮らす家は輸入住宅と聞く、白を基調にし、お洒落で便利ではあるがこの家以上の安らぎを覚えないと言う。

 

 

ご実家はジュラク壁と床板には松が使われており、柿渋かと思われる天然系の塗装が施され美しい光沢を放つ。

 

杉の雨戸は風通しを考慮しガラリが付いていた。60年前と思えない暮らしの工夫に家主のこだわりが見える。この家に安らぎを感じるとすれば化学物質が少ないことと、親の愛情に育まれた温もりが残るからだろう。

 

先日ある住宅雑誌に大学教授のシックハウスに関するコメントが載っていた。

「近年の住宅で多く検出される高濃度の未規制物質に、無垢フローリングの木材から発生する天然成分がある。天然木の香り成分であるテルペン類の物質で、高濃度になると目や呼吸器への影響が報告されており、無垢材を使用する場合は化学物質が比較的少ない落葉樹(常緑樹は毒性が高い)を部屋の30%程度に抑えて使用するとよい」と述べられている。

 

確かに化学物質過敏症を発症すれば、微量であっても反応する方はいるが、アレルギーと同じで何に反応するかは人によって違う。天然素材でも安心はできないと指摘してのことだとは思うが、無垢フローリングに的を絞ったコメントに意図的なものさえ感じ、違和感を覚えた。

 

それ以前に問題視するべきは可塑剤や接着剤にまみれた新建材を多用し、ホルムアルデヒトのみに絞り込んだF☆☆☆☆建材さえ使っていれば良しとし、健康住宅とまで豪語するビルダーが数多く存在することではないだろうか。

 

今も化学物質過敏症やアレルギーに苦しむ大勢の方がいる。今年、15年ぶりに化学物質の指針値が強化されるというが、生活者も食を意識するように、住に対しても向き合って欲しいものだ。

 

最良の空気汚染対策は換気にあることもお忘れなく。いい季節には窓を開け放とう。

 

(「木族」2018年4月号より)

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