我が家を改装して早5年。杉板フローリングの足触りは四季を通してとても心地が良く、年々色が深みを増し、艶も出てきて良い感じです。未だ香りもしています。杉材はとてもお勧めなのですが、化学物質過敏症の方は、杉材からでる匂い(天然の化学物質)にも反応されて難しい場合もあります。
4年前に設計した60代の化学物質過敏症のお施主様は杉の香りは大丈夫でしたが、病気になっても入院できず、老いても施設へ入所できないので、安心できる終の棲家が欲しいと切実な想いでした。住んでいなかったご実家に戻られ、古い家を改装しようと思われたようですが、床下からの防蟻処理の臭いで難しく、新築でゆっくりとしっかり一つ一つ確認しながらの住まいづくりになりました。
計画途中に同居されている80代のお母様が転倒して介護が必要になり、室内に新しい介護ベットを運び込んだとたん、お施主様の身体が反応し、その部屋に入れなくなりました。簡単な形のベットなら杉材でも造ることはできますが、介護用は機械を組み込むので難しく、結局、長くお店で展示して臭いが抜けた物を介護士さんが見つけてなんとか凌げました。家具の選定も大変です。
移り住まれてからもお元気そうにされていましたが、この春、昨年秋から隣地の田んぼに散布された農薬が原因で体調を崩されているとお聞きし、とても心配です。計画時から農薬散布の時期も持ち主に確認して、高いブロック塀で遮り、外気を極力室内へ入れないようにしていても、農薬散布は毎年のことですし、無農薬に変えてもらうことも難しいです。
現在マンション改装工事中の方は、杉材は無理ですが、室内用水性木材保護塗料を塗布して1ケ月程置くと身体が反応しにくくなることがわかりました。かといって多用は禁物なので、収納の床のみに使いました。詳しくは次号の施主の本音でお話し頂けます。大規模改修が今秋にあり、塗料の臭いもですが、ベランダに干す洗濯物の洗剤の臭いが、マンション全体に掛けられる養生シート内で充満することを恐れられています。
空気には境界が無く、ご本人だけの防御にも限界がありますし、生活もあるので人から離れた所に住むこともできません。まずは現状を知ってもらうことが大切かと思います。
(「木族」2021年8月号より)