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「住い考」コラムの記事一覧

ご家族の思いを感じ取りたい

住い考

最近、今にも咲きそうな花のつぼみを見て、寒かった冬もようやく終わりだと実感します。また春は何かとスタートの季節、清々しい気分です。

 

さて、最近住まいの打合わせをさせていただく中で、家造りの過程をお施主さんといかに楽しめるか、どれだけ気兼ねなく話ができるかで、いい家になるかどうかが決まってくるような気がします。

私自身もわくわくしながら設計をすると楽しいし、手間を惜しまず、いい家にしたいなという気持ちが増してきます。

 

施主様の立場から考えると、高い買い物で、不安が付きまとい、楽しむ余裕がないというお気持ちもわかりますが、不安から得るものってプラスアルファ―になりにくいと思うんです。もちろん、そのためにも建築士の存在が重要になってくるのですが…。

勉強をされるのは結構ですが、そのために建築士を半信半疑の目で見るようになると、家づくりをしても絶対にいいものはできません。

 

誤解を恐れずにいうと、建築士との間に壁があり、お互い「違うな」と思っていて、無理に話を合わせながらの打ち合わせの時間は、とてももったいない話だと思うんです。

 

どのご家族も、それぞれ暮らし方、楽しみ方、ライフスタイルが違うので、当然、家づくりにおいても、間取りや収納スペースの量などは変わってきます。いかにそのご家族のことを、どれだけ短時間で感じ取ることができるか。これがまず大切だと思っています。

 

私自身は人見知りですが、お客さんとの間に壁を造らないためにも、できるだけ思ったことを率直に口にし、素のままで接したいと思っています。

 

食べる、見る、話す、寝るという日常を家族と共に楽しく暮らすための大事な場所が家だと思います。そして、ご家族一人ひとりの考え方、物事の捉え方が当然違う中、共同生活を円満にするためには、心が豊かでいることはとても大切です。社会生活、また子育てに追われる中、常に明るくいられるわけではないでしょう。ただ、家の中に「ほっこり」する場所があれば、少しは感情をやわらげることもできるかな、と思うのです。

 

目に見えるご要望だけでなく、そのご家族が大事にしているものを感じとれると、家づくりはよりよいものへと変わってきます。また今までご家族が持ち得たものだけでなく、新しい生活で夢見ている抽象的なことを現実化させるのも私の仕事だと思っています。

 

建てた後も、お施主さんご家族が共に、気軽にライフスタルを楽しめる、そんな家づくりを今後もめざしていきたいものです。

 

(「木族」2015年4月号より)

価値観を整理する

住い考

こだわらない点は何ですか?

家づくりに取り組む際に「住まいのカルテ」というものをお渡しして、家づくりのご希望を書いてもらうようにしています。その中で「家づくりでこだわらないところを5つ書いてください」という項目があります。この項目に対して何を書いていいかわからないと大抵の方はおっしゃいます。

 

それはそうですね、今から夢の家づくりが始まるのだから、やりたいことしか考えてないですね。しかし、この5つの「こだわらないところ」が家づくりを進めていく中で最も大事になってくるのです。

 

というのも、予算や土地に限りがある以上、あふれるばかりの希望をすべて満たすことは難しいのです。身の丈に合った希望を持てるのであればいいのですが、家づくりの経験がない皆さんには至難の技となります。希望だけで事を進めていくと、妥協の産物でしかない「それなりの家づくり」になってしまうので、取り組む前に考えておくにこしたことがありません。そこで、私が推めるこだわらないところを紹介します。

 

まず「大きさ」です。以前から「小さい家で豊かに暮らす」をテーマに取り組んでいますが、ただ「小さい」ことにこだわっているのではなく、無駄を徹底的に省く取り組みです。「断捨離=だんしゃり」という言葉はご存知でしょうか。必要のないものを断ち、捨てて、執着することから離れるという意味を表す整理法の一つ。家を倉庫化しないということだけでなく、ライフスタイルの価値観をどこに置くかを整理することも重要な目的です。

家づくりを機に、家族だけでなく個人としての目指すライフスタイルに一歩でも近づけるチャンスの時だとも思うのです。

 

■その他こだわらないところの例

・納戸は持っている大きい物を入れる1帖分だけにする。あとの収納は必要なところに最小限の大きさにする。

・寝室はベッド2つと机が収まる大きさでいい。

・子供室もベッド1つと机が収まる大きさで。

・設備類(便器、浴室)は最新のものでなくても使えればいい。

・玄関は小さくてもいい(靴や傘などの収納は充実したい)

・無駄なスペースは設けない。仕方なく出来たスペースは廊下やPCコーナーや本棚などの用途として利用する。

 

■逆に実現したいことの例

・無垢板、塗り壁など素材にはこだわりたい。

・外壁はメンテを考えていいものを使いたい。

・断熱材は毎月の光熱費を節約したいので性能が高いものを使いたい。

・縁や庭などゆとりの空間が欲しい。

・家のサイズにぴったりのテーブルやTVボード、座り心地のいい椅子が欲しい。

・LDKはゆったりできる空間にしたい。

 

以上は、もし私が自宅の建築を考えるのであればの一例です。こだわらないところがあればあるほど、したいことが実現可能になると思っています。

これから家づくりを考えている方、こだわらない点を5つ見つけてみてください。見つかると必ずいい家づくりができますよ。

 

(「木族」2015年2月号より)

自然を「味方」に変える

住い考

真夏の夜には、窓を開けて寝たいと思っている方も多いのではないでしょうか?

でも、窓を開けても風は全然入ってこない。

 

仕方なく窓を全部閉めて、エアコンをつけてタイマーをセットして寝る。でもタイマーが切れて暑くなって目が覚めて、寝ぼけながらまたエアコンを点けて…朝起きるとなんだか体がだるい。そう感じている方もおられるのではないでしょうか。

やはり夏は本来、誰もがエアコンを点けずに、窓を開けて風を感じながら寝たいと思うはずです。

 

では、どうしたら部屋の中に風を通すことができるのでしょうか。

風はどこから吹いてくるものなのでしょうか。

 

実は、風は常にランダムに吹くわけではなく、季節によって風向きが大体決まっています。同時に、朝昼晩でも風向きは変わるものです。ですので、風を通したい季節や時間の風向きに合わせて窓を設け、風が抜けるように、風下側にも窓を設けてあげると風は通るのです。

 

さて、今回のお施主さんは「冷房が苦手なので風通しが良く、夜も1階寝室で窓を開けて寝られるようにしたい」がご要望の一つでした。このご希望を満たすために、泉大津市地域の夏の夜の風向きを調べることにしました。

 

昔から近辺に住む奥様のお父さんから「ここは近くに海があり、気持ちのいい浜風がよく通る地域」とお聞きし、また気象庁のホームページで6~9月の夏の夜、よく南西から風が吹くことも調べることができました。この2つのデータから南西の方角に窓を設ければ、夏の夜に浜風は入ってくると想定、夏の夜に風を通したい寝室を、南西に窓を設けることのできる位置に配置しました。

 

今回の例のように、間取りの段階で風向きを考慮し、それに合わせて部屋を配置させることで家の中に風を取り込むことができます。

もちろん、風のない日もありますし、雨の日などは風を通すことができない時もありますので、エアコンを利用する日もありますが、以前住まわれていたお家よりは確実にエアコンを利用する日が少なくなり、当然、健康にもいいし、光熱費も安くなります。

 

真夏の夜だけでなく昼の風も期待して、LDKにも風を通す工夫をしています。(長くなるのでここでは割愛しますが…)また、自然利用は風だけでなく光についても季節ごとに考慮して空間づくりを行いました。

このように風や光などの自然のものは、設計の工夫次第で、天敵から味方に変えることができます。

 

 

お施主さんのご好意により、この住まいの完成見学会を12月6日(土)に開催できることになりました。杉の床の足触り、土壁、珪藻土の質感など、実際に使われている素材を肌で感じることができますので、これから始まる家づくりにとって必ずお役に立てると思います。

また、お施主さんにも見学会にご参加いただけることになりました。実際に家づくりをされた方にお話を聞くことによって、これからの家づくりの参考にもなりますし、不安に思われている点も少しは払拭できるのではないかと思います。お気軽にご参加ください。

 

(「木族」2014年12月号より)

空間の「質」を大切に

住い考

引き渡し跡半年「25坪の住まい」

 

この間お引渡しさせていただいた25坪の住まいにおうかがいしました。この間といっても、お引渡しさせてもらってから、もう半年近く経ちます。早いものです。

 

お引越しされてから一度もおうかがいしていないので楽しみでした。完成見学会に来てくださった方が『「25坪の家」とは思えないほどゆったりとした空間。だけど納戸も2畳だけで大きくないし、引越しされてから見てみたい』と話されていたことを思い出します。引越し前の状態と変わらない空間ができていることを確信しながらも、少し不安がよぎって…。

 

訪れて見ると、引越し前と同様のゆったりとした空間が!奥さんが収納上手ということもありますが、きっちりと整理され、部屋に余計なものは一切出されていません。食器1枚分の奥行30センチの食品庫も、すっぽりおさまっていました。

 

ものが溢れがちなキッチンですが、造作の配膳台に計画通り、レンジ・炊飯器・ゴミ箱など、すっきり納まっていました。このキッチンには、使いづらい吊り戸棚をつけずに窓を大きく取り、明るさや、庭が見えることを優先しました。収納もキッチンの下にたくさん入れることができるので、吊り戸棚はなくて正解だったらしいです。

 

子供部屋も小さいですが、机・ベッド・ソファなど、無駄なく程よい空間になっています。

 

 

2階のそれぞれの部屋の建具を引き込めるようにし、開放的な空間をデザインしていたので、個室としても、共用としても使える場所にしておいたことがよかったのではないかと思っています。

モノをあまり出さず、すっきりと収納されていると、やはり空間が生きてきます。ダイニングテーブルで施主さんと、住み心地についてお話していたのですが、南から入る風がとても気持ちよくて、夏場は扇風機だけで、エアコンはかけておられなかった様子。南北に設けた窓が効いているのでしょう。

夕方になると、南窓から角度の低い西日が入ってくるのですが、断熱ハニカムブラインドを直射日光の当たる部分まで下げると、簡単に日差しが回避でき、熱もこもらないので快適でした。

 

私個人として今回うれしかったことは、南の外部に面する木製建具についてのお話です。

 

 

 

夏の湿気で木が膨張し少し開閉しにくくなっていました(無垢の建具は、住んで1季過ぎるまでは環境に馴染まないので、たてつけが悪くなります)。アルミサッシと比べて値段も高く、こうしてたてつけが悪くなったり、何年かすると木部を塗る必要があったりするのですが、それでも「木製建具によって外のデッキや庭がつながっているようで、サッシだったらこの居心地の良い雰囲気は出てこなかった。木製建具にしておいてよかった」とお話しいただきました。

 

「アルミのサッシ枠が結露した時も木製の建具だけはしなかった」「予算があれば全部木製建具にしたかった」とも。

 

アルミサッシを庭のある面に利用すると、どうしても無機質な壁が出来てしまいます。せわしない世の中で、利便性よりも居心地の良さを優先して木製建具を選んでいただける。本当にうれしいことです。

 

寝て起きて、食べて、仕事や家事をする。そのルーティンを少しでも楽しむことで、豊かさが生まれてくるのだと思います。

やはり、空間は大きさではなく、質と確信した一日でした。

 
(「木族」2014年10月号より)

木摺り下地の土壁採用

住い考

コスト削減し調湿効果大

暑いですね。最近外に出て、少し歩くだけで汗が吹き出てきます。湿度80%ですよ。そりゃあ蒸し蒸ししますよね。

 

私は、以前から量(大きさ)より質をテーマに、効率の良い家を追求しています。

 

最近思うのですが、収納の奥行きが無駄に大きいように感じます。モノを収納しても奥行きが深いため、空きスペースが残っている。収納するものに収納寸法を合わせれば合わせるほど、奥行きはそれほど必要ないように思います。

例えば下駄箱。靴・傘雨具その他小物などは奥行き35センチあれば充分。食器棚も利便性を考えれば、お皿を2列に重ねるよりも1枚の方が使いやすい。そう考えると40センチもあれば充分。食品庫も15センチあれば、ストックできる。書物類も30センチで大丈夫。

 

奥行きが必要なのは布団などを収納する押入れくらい。それ以外はそれほど必要ない。奥行きがそれほど必要なければ、収納スペースを各用途ごとに配置すれば、それほど場所を取りません。

 

収納するものをしっかり事前に考えて、用途ごとに、収納スペースを多く設ければ無駄なスペースは省けます。家は「住む」ための場なので、収納よりも家族が集うリビングやダイニングにゆとりを持たせたいですね。

 

今回の話したいこととはちょっとずれてしまいました。

 

今のこの夏の季節、室温を下げるためには断熱性を高めることで解決しますが、湿度を下げるとなれば簡単にはいきません。

 

今あるような高断熱の家で夏を快適に過ごすには、外と中をしっかり断熱した上で、エアコンを利用するしか方法はない。自然の風を利用したいと思っても、ジメジメした風だと余計不快になります。

 

このジメジメとした湿気を取り除く方法は昔の家にヒントがあり、やっぱり土なんですよ。

 

土に調湿性があることはみなさんもご存知だと思いますが、昔から当たり前のようにあった日本家屋(土壁)だと厚みも60mm塗りつけるので、夏の湿気を取り除いてくれ、室内は比較的ジメジメしません。

 

よく利用されている珪藻土など調湿性のある塗壁などは、せいぜい3㎜くらいの厚みしかないので、夏の70~80%の湿気を全て調湿するには無理があります。

 

しかし、昔ながらの土壁にすると、手間と費用がかかってきます。光熱費を考慮した費用対効果で言えば、簡単にペイできますが、イニシャルコストは必要になってきます。

 

今回取り組んでいる泉大津の家では、竹を編んで土を塗る昔ながらの土壁ではなく、室内に10㎜厚の木を細く入れた木摺(きずり)下地に、土を30㎜厚とし、リビングダイニング、寝室に塗るようにしています。

 

手間もコストも抑えることができます。夏の湿気を取り除いて、思いっきり窓を開け、風鈴の音を聞きながらひんやりとした風を感じ生活する。少し暑くなってきたら、団扇で風をつくる。これが昔からの夏の過ごし方のような気がします。
 
(「木族」2014年8月号より)

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