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「住い考」コラムの記事一覧

小さく安らげる場所に

住い考

大事にしたい伝統技術

月日は早いですね。

もう5月です。今年ももう半年に差し掛かっていると思うと、なんとなく焦ってきます。

 

私事ですが、建築士事務所民家から独立し、設計事務所を立ち上げることになりました。もちろん民家の設計もしますが、国産材住宅推進協会の会員建築士としてちょこちょこみなさんと顔を合わせることになります。

振り返ってみると、協会でお世話になり、いろんな方々と出会いました。特に印象に残っているのは林業のお仕事を見た時です。

 

日本の未来の資源として利用できるように、戦後焼け野原に杉や桧の苗を植えたことが始まりなのですが、育つまでのピンチヒッターだったはずの輸入材に押され、国産の木が使われなくなったのです。

 

家づくりにおいて、木ならどれも同じであれば、輸入材利用も考えられますが、日本の独特の湿気の多い気候にはやはり日本の木がいいのです。

 

毎日地道に木を育て、危険を顧みず伐採し、険しい傾斜から木を私たちの町まで運んでくる林業作業員さんの姿を間近でみることができ、お客さんと直にお話する機会が多い建築士として責任重大だなと感じました。

 

あと、私の今ある設計技術は現場で職人さんに色んなこだわりを教えてもらうことで、得たものだと思っています。おそらく、机の上でしか設計をしていなかったら、素材や収まりなどにこだわっていなかったかもしれません。

今まで、色んな機会を与えてくださり見守って頂いた代表には感謝です。私たちの世代がそろそろ出て行き、安心した姿を見せないといけないのではと思います。茨の道ではあるけれど、楽しく進んでいけたらなと思います。

 

 

私としては、「小さい家で豊かに暮らす」をもっと追求していきたいなと思っています。

大きく贅沢な家というよりも、密度の濃い無駄のない家造りをめざします。厳しい社会の中で、家にいるとすべてが忘れられる、そんな人を癒すことのできる空間を造りたいなと思っています。

 

 

あと、やはり土壁や大工・左官などの伝統技術が引き継がれていくような家づくりを追求していけたらと思います。

 

 

木族はこれからも書かせて頂くことになりましたので、よかったら引き続き読んで頂くと幸いです。

(「木族」2014年6月号より)

空間濃縮→夢に近づく

住い考

こんにちは。新年を迎えたと思えばもう4月。桜が綺麗な季節がやってきました。

今年こそは桜並木をぶらり散歩したいなと思っています。

 

さて、2棟の家の見学会が終わり、たくさんの方に見ていただき、後日、無事に

引き渡すこともできました。2棟はほぼ同時期の計画・着工は正直きつかったです。でも結果よければすべてよしで、いい経験になりました。

 

私は今、「ちいさな家」をお勧めしています。その主旨は「質の高い家」に住んで

いただきたいという思いからです。量=大きさ=より質という考えです。

漠然とした、単に大きい家よりも、無駄のない濃縮された空間を追求し、面積を

小さくできた分で、いい素材を使う。これは住んでからのランニングコストを低減

させることにもつながります。

 

 

プランニングに当ってはまた、家族がそれぞれの季節を感じながら楽しんで

暮らせる仕掛けをしたいな、と思っています。

 

豊能町の家では、川に隣接した縁に椅子を設け、川のホタルや、この季節

もうすぐに咲く桜を気軽に眺めるようにしました。また縁に出る開口部を

全開口できるようにすることで、季節の風を思いっきり感じることもできます。

 

構造材の梁を子供さんでも手の届くところに架けて、木のぬくもりと

強固さを肌で感じてもらえるようにも考えたり、遊び心を盛り込んだ

取り組みです。

 

大阪狭山市の住まいでは、植えられた2本のシマトネリコの間をくぐり

ながらアプローチ。ご主人が夜遅く仕事から疲れて帰ってこられても、

庭を見てホッとしていただけたら私の仕掛けは成功です。

 

なお、2棟ともに薪ストーブを導入しました。どちらのお住まいの火入れも

拝見することができました。炎を眺めていると、施主さんが炎の前で

寝転んで本を読んでいる姿や仕事で疲れて帰ってきて、薪ストーブの

前で寝転んでいつの間にか寝てしまっている、そんな絵が浮かんできます。

 

ただただ「生活するため」だけでは、もったいない。精神的に癒される

空間をめざすことによって、より満足いただける住まいになるのでは

ないかと思います。夢と思えるようなライフスタイルを現実のものに…

そんな住まいを建てませんか?

 

2棟のお施主様とは本当に楽しくプランニングさせていただきました。

とてもありがたいことです。またもちろん、現場担当者やさまざまな

職人さんたちのご協力があってできた住まいです。その人たちに感謝

するとともに、それに応えるべくますます努力しなければと思いました。

ひとつひとつの家づくりが私の建築士としての成長だけでなく、一個人の

成長にもつながっている様な気がします。ありがとうございました。
 
(「木族」2014年4月号より)

”狭い空間”こそ”贅沢”

住い考

あけまして、おめでとうございます。

新年はじまったと、思えばもう2月です。時間がたつのは早いものです。

 

もうずぐ竣工する新築のお住まいが2棟あります。どちらの家も25坪

から30坪といった、世間一般では「小さい家」になりますが「しかた

なくこの規模」ではなくて、私は小さな家だからこそむしろ豊かな暮ら

しができると考えています。

 

「豊かな暮らし」って、ただただ高価に見える素材や数値的な広いスペース

から生まれるものではないような気がするんです。それよりも「居心地の

良さ」こそ贅沢なものではないのかと思っています。

 

横(平面)や縦(立面)の無駄なスペースはそぎ落とし、必要最小限のスペース

にし、そのスペースにはこだわりのある自然素材を使い、風の流れや光を

最大限家全体に行き届かせ、どこにいても四季を感じ取れる居心地の良い

空間を目指す。

 

小さいゆえに起こりうる圧迫感は、庭や借景を通した視界の広がりや高低差、

明暗の演出を利用することで、ゆとりは生まれます。

掃除嫌いで物をあまり持ちたくない私の発想ですが、もしかしての予備

スペースや意味をなさないスペースは、贅沢なものではなく無駄で手間のかかる

ものになりかねないのでは?生活していて利用するスペースって結構限定されて

いて、25坪くらいが許容範囲だと思うのです(もちろん家族数にもよるでしょうが)。

 

 

今回どちらの住まいも室内の壁は左官壁で床には肌触りがよく、あった

かい杉、カウンターや家具、建具のちょっとしたところには桜などの広葉樹を

取り入れ、日増しに味わい深くなる素材を使っています。

庭や借景を取り入れ室内と繋げることで、リラックスできるゆとり空間に

なるようにしています。

 

温熱環境として、どちらも薪ストーブを入れる予定で、この1台で冬は完全に

まかなうことができます。夏は補助としてエアコンを設置するけれど、風が通り

抜けることができるので、快適なのではないでしょうか。

どちらの家も贅沢な感じはしますが、それは余りあるお金がもたらすのでは

なく、面積が小さいがためになせる技なんです。

 

家づくりって面白くて、高価であればいいものができるとは限らず、それよりも

「住む感性」のほうが大事だと思います。これは家づくりに限ったことではなく、

私の周りでも、生き方がオシャレだなとか、なにかとセンスあるなと思う人は

いますが、決してお金持ちではないです。感性が豊かなんだと思います。

 

ちょっと話がそれましたが、周りの景色・庭を眺めたい、風や光といった自然を

感じたい、四季を楽しみたい、経年変化する自然素材を使いたい…このあたりが

お客さんと共感し合えたんではないかと思います。

2階の住まいの見学会、お時間がございましたらご参加ください。
 
(「木族」2014年2月号より)

家づくり→楽しむ時間に

住い考

最近めっきり寒くなりましたよね。私は寒いのが大の苦手で、

11月の時点でかなり着込んでしまっています。もうすぐ

やってくる1月2月が恐怖です。

 

さて、設計を担当している2棟の建物が無事上棟しました。

 

棟が上がる光景を現場で見ていると「いよいよ家が建つのだ」

と実感します。お客さんと打ち合わせをした日々を振り返って

みると、いつも楽しく充実したものだったような気がします。

 

2棟いずれのお施主さんともに、ありがたいことに

ご指名いただきました。はじめから信頼を寄せていただいた

ということもあって、私としても設計のしがいもあり、

また打ち合わせもスムーズにできました。

お施主さんと価値観を共有でき、2人3脚で取り組めたと

自負しています。

 

やはり私は、家づくりにとって一番大事なことは信頼関係だと

思っています。家づくりを失敗しないために、お客さんが自ら

家の勉強をされたとしても、すべてを建築士に委ねないで済む

ということはありません。

 

私の経験としては、家の勉強をされることを否定はしませんが、

お施主さんご自身がどんな家にされたいか、どんなライフス

タイルを送りたいのかを考える方が大切な気がします。そして、

ご自分の考えに沿ってプランニングするような建築士を探して、

家づくりを委ねるのが賢明な判断だと思います。

 

お施主さんと建築士が価値観を共有できれば、おのずと楽しく、

いいもの(住まい)ができると断言できるような気もします。

 

私はよく「楽しむ」という言葉を使いますが、家を建てる方々に

とっては「楽しむ」までのハードルは結構高いと感じています。

「家は高い買い物」なので、より慎重に、より確実なものをと

考え、無難なものになってしまうのは必然なのかも知れません。

寒い家にならないだろうか?耐震強度は大丈夫だろうか?

お金は足りるだろうか?

希望に夢を膨らませるより先に、不安が頭に浮かんでしまう…

もちろん理解できます。その不安をなくすことも我々建築士の

仕事で、私はまず、ポジティブな夢の話をするように心がけています。

不安を解決するだけでは家づくりを楽しめません。やはり

ポジティブな夢を現実化させていくことによって、初めて「楽しむ」

という段階に進むことができるでしょう。

一生に一度の買い物だからこそ、楽しまないのはもったいない。

これはもちろん、家づくりだけに限ったことではないとも思われるのです。

今回の2棟の建物の完成を、お客さんと同じ気持ちで楽しみにしています。

 

この住まいの完成見学会を予定しています。素材は何を使っているのか?

断熱性はどのくらいか?といった面も大事ですが、何よりもお施主さんが

楽しんだ時間の結晶を見て欲しいと願っています。
 
(「木族」2013年12月号より)

咲かせたい2つとない花

住い考

秋ですね。紅葉を眺めて心癒されたいですね。

 

さて、最近お客さんと打ち合わせをする機会が頻繁にあるの

ですが、お客さんの住まいに対する情熱に圧倒されます。

一生に一度の大きな買い物で、このために、今後何十年と

ローンを払い続けるプレッシャーと戦い続けなければならない

ことを考えると、当然のことだと思います。

 

「できる限り嫁の望みを叶えてください」

「子供に何か記念になることがあればしたいのです。」

と、自分の部屋は寝ることさえできればいいので家族が

喜べばと話してくれる旦那さん。自分のことは二の次である

「無償の愛」はとても美しく感じます。こういった家族の終の

棲家を設計できることはとても幸せだと思います。

 

設計者によって、考え方も趣味も違うので、完成する前の

イメージには少なからず設計者の「色」が出ます。ですので、

お客さんと私の出会いは運命の巡り合わせといってもいいかも

しれません。その託された運命に、施主さんが望むことを満たす

中で、私の個性を活かすことができればと思っています。

 

以前、有名建築家さんの10年後の住まいの見学会に行った

際に、お施主さんが「私たち家族が仲良く暮らしているのは、

いい家に住んでいることも一つの要因です。家にいれば穏やかな

気持ちになれ、不安や悩みも家に帰れば、小さなことのように

思える」と仰っていました。私も人の精神が安らぐ空間づくりが

できれば最高だなと思いました。

 

お客さんと設計者が同じ方向を向き、どれだけ楽しんで取り

組めるかが「いい家」づくりの鍵ではないでしょうか。これを

実現するため、私が思っていることは素のままにすべてお伝え

するようにしています。

 

今度、同時期に2棟の住まいが着工します。お客さんにとって、

設計の打ち合わせという第1章が終わり、実際に作っていくという

第2章が始まります。完成時に一緒に喜んでいただけるように、

身を引き締めて最後まで取り組もうと思います。

 

 

ちょっと前にお施主さんに言われたことがあります。

「家が完成すると、また違う家が始まるから、私たちの家のことは

忘れてしまいますよね」と。

 

私の場合、そんなことはおそらくないといえるでしょう。なぜなら、

業務の一貫として流れ作業のように取り組んでいるわけではなく、

一つ一つの家づくりにおいて思い入れがあり、またお客さんと接する

過程で私自身が学び成長し、今に至っているとひしひし感じるからです。

 

私自身の成長は家づくりの中から生まれてきています。取り組んだ

すべての家づくりは他と比べることのできない、いわゆる「ひとつだけ

の花」です。

この次も、二つとない花が咲くことを楽しみに家づくりに取り組み

たいと思います。
 
(「木族」2013年10月号より)

 

 

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