「暮らし方上手」コラムの記事一覧
戸建ての建替えやリフォーム、リノベーションのご依頼でご自宅にお伺いして、暮らしにくい間取りだなぁと感じることがよくあります。住まわれている方はそれに合わせているので、ほとんど気付かれていません。そして、なんだかモノが片付かない、収納が少ない、家事で疲れる、ただ生活しにくい…と言われます。
新築時の暮らしを考えていないプランが原因の時は、同じ設計者として責任の重さを感じます。一から建て替えをする時や思い切ってリノベーションができればすっきりと解決しますが、予算に合わせての小規模のリフォームの時はもどかしい限りです。動線を考えて家具を移動し、適材適所に収納を設えることが関の山で、この間取りじゃなかったらなぁ…と溜息がでます。
新築の年代によっては、暮らし方の変化で間取りが合わなくなっている場合もあります。古民家によくある田の字型の和室では、建具を使って柔軟に小さくも大きくも使えますが、個人の部屋としては落ち着かないですし、収納も少なく、コンセントの位置にも困ります。続き間の和室が一番日当たりのよい場所にあっても、滅多に使わない客間や仏間になり、普段の生活の場は日当たりが悪いところになります。これらの場合は住まわれている方も知るところで、大規模なリノベーションになり、ご予算とのにらめっこ。
一昔前の住まいは廊下と個室で細かく区切られて、プライバシーは守られていても風通しや採光が悪く、思い切ったリノベーションでないと解決できないことばかりです。
生活動線がシンプルで、風の流れや太陽の動きも見据えた間取りが一番だと痛感しているこのごろです。
(「木族」2020年8月号より)
夏至(6/21)も近づき、日暮れが遅くなってきました。洗濯物の取り込みや夕食の段取りもつい遅くなってしまいます。
長い外出自粛期間、どのように過ごされましたでしょうか?私はもともと在宅で仕事をしているのでその点は大きく変わらなかったのですが、時間に余裕ができたので、今まで後回しにしていた仕事や家事をしたり、色々なことを見直すことができました。
2月号で書きました我が家の納戸(和室6帖)を長男(16歳)の部屋へ、3月末に模様替えをしました。長男と2人で家具を動かしたり、納戸に溜めていた普段使わないモノの整理をして、なんとか2日間で形になりました。この後、学校への登校もほぼ無くなり動画配信の授業を受けたり、家で過ごす時間が長くなったので、良いタイミングだったと思います。
長男は、初めて自分の部屋を考え、自分の基地をつくるような感覚なんでしょうか、モノひとつの配置を決めるのも楽しそうで、今でも過ごしてみて、より快適になるよう微調整をしています。それに自分の部屋を持って余程嬉しかったのか、最近では早く一人暮らししたいとも言い始めました。母としては巣立ちの時期が早まったようで少し寂しい気持ちですが、ぐっとこらえて長男の成長を温かく見守りたいですし、それまでの時間を大切に過ごしたいです。子供が自分の部屋を持つことの意味を教えてくれたようです。
私の仕事面では、個人のホームページ「住楽」をやっと立ち上げ、未だ現在進行形ですが、今まで携わった住まいの写真を整理して一軒ずつ実例のページを足しています。
お施主様ご家族のお顔を初めてお会いした時から思い出し、忘れかけてたエピソードも懐かしく思い返しています。あらためて、どの住まいにもひとつひとつ物語があると実感しています。
もしよろしければ、ご訪問下さい。
(「木族」2020年6月号より)
「小さくても豊かに暮らす」
とても曖昧で主観的な言葉ですが、先月開催したセミナーの題目です。
住まいづくりでは、ご予算の都合で施工をする面積が限られることが珍しくなく、「小さく」という言葉には、せっかくの夢がしぼんでしまうような良くない印象がついてきます。
しかし私が思う「小さく」とは、面積の大小ではなく、大切にしたいことを軸にして、ギュッと詰まった、充実した空間にすることで、ぴったりと身の丈に合った着やすい服を作るようなイメージがあります。ぴったりと合わすためには設計としても知恵を絞りますが、お施主様がご自身で管理できるモノの量を知ることや、価値観に沿ってのモノの整理は必然となります。
「豊かさ」は四季や嵐、陽ざし、安全安心、人との繋がりなどを感じられる時間を過ごす、五感と時間を大切にすることではないでしょうか。
国産材の杉(無垢材)の床板は柔らかい素材なので傷がつきやすいですが、足触りが冬は温かく、梅雨と夏はさらりと心地がよく、香りは部屋の空気を一変します。年月を経ると段々と味のある飴色に変わる様子も目を楽しませてくれ、私は豊かさを感じます。
自分は何を大切にして暮らしていきたいかを明確にすることで「小さくて豊かに暮らす」ことができると思います。「小さくしか」できないと肩を落とさず、諦めないで欲しいです。
(「木族」2020年4月号より)
「自分の部屋、欲しいんやけど」16歳の息子からボソッとつぶやかれました。話を聞くと、リビングにいて何か嫌なことがあったわけでなく、一人っきりになれる空間がただ欲しいとのこと。
まあ思春期なので当たり前の事かと思いますが、未だ欲しがったことのない18歳の娘(姉)にも聞いてみると、娘は全然今のままでいいらしく、小学校入学時に机だけ用意をして、2階にふたりそれぞれのコーナーを作っていて、集中して勉強をする時のみ座っていますが、ほとんどリビングで宿題をしたり音楽を聴いたり好きなようにしています。そして寝るのは未だ一部屋に家族4人川の字ですが、娘は一人で寝るほうが不安だそうです。姉弟でも考え方が違うものです。
我が家は延べ床21坪の小さな家なので、現在納戸にしている部屋に置いているモノを片づけないと息子の部屋の確保ができませんし、婚礼家具を置いているので耐震対策もしないといけませんが、学年が変わらないまでに子供部屋にする予定です。
小さい家を広く使いたくて間仕切りを極力無くしているので、家族の気配を感じる暮らしに慣れていて、息子の部屋のドアも個室とはいえ開けっ放しになりそうです。
最近の新築は、屋根・外壁・床下に断熱材をしっかり入れて、トイレや浴室を除いて家の中は細かく部屋を割るのではなく、家具で仕切ったり、壁もランマ(建具上)は壁が無い状態にすることが多いです。
ひとつの空間にするのが温熱環境では理想的で、建具も少なくなりコストカットにもなります。部屋を仕切らないので、家族の気配を感じられるのが良いとするか、プライバシーがないと感じるかは難しいところですが、主寝室や子供部屋の考え方も変わってきていると思います。
(「木族」2020年2月号より)
協会恒例の高知県梼原町ツアーも今回で8度目。昨年初めて雲の上の図書館を訪れた時は、隈研吾さん設計の空間を満喫しましたが、今年は時間帯が前回と違い、町の人たちが図書館を利用する普段の姿に触れることに。
土曜日の午後、子供たちが本を読むだけでなく、宿題やゲームをしたり、途中に外で遊びたくなったのか、床に本やノートを開けたまま、ゲーム機もそのままに、図書館前の芝生でドッジボールをしている姿は活き活きとしていて、学校の休憩時間の運動場のようでした。
館内2階には小さくテーマに沿ったコーナー室があり、ポツリポツリと人を駄目にする椅子(ご存じですか?)が。人目から少し隠れるところで傍らに読みたい本を積み重ね、膝に本を広げたまま心地良すぎてうたた寝している大人の姿も微笑ましい限りです。
この図書館が町の人々から愛され暮らしの一部になり、豊かな空間に豊かな時間が流れていることに感銘。建築はこうでありたいものです!
見学時、ツアー参加者から素敵なお話もありました。旅行先の図書館へ行くのがお好きで、その地域の史書を読み、地域に対する思いを深められるそうです。梼原町も入ってすぐの一番目立つところに町の歴史が分かる本が並んでいることに気がつきました。
タイミングが合えば是非とも梼原町ツアーにご参加を。ファンになるに間違いありません。
(「木族」2019年12月号より)