「暮らし方上手」コラムの記事一覧
春は出会いと別れの季節です。我が家の長男が念願の一人暮らしをすることになりました。3年前に自分の部屋ができてすぐに「大学では一人暮らしをしたい!」と言った長男です。一喜一憂した受験でしたが、地道に努力をして思いが実りました。
合格して喜んでいるのも束の間、短い期間で入学準備をし、下宿先を決めないといけないので慌ただしく、ましてや慣れない土地でのことで、長男だけでなく私たち夫婦も右往左往しています。
30年前、私が結婚で実家を出てから3か月経った頃、一人暮らしになった母から一通の手紙が届きました。未だ携帯電話の無い時代ですが、用件は電話でも済むだろうに何だろうか?と思いつつ封を切ると、「なんてあなたは薄情なんでしょう」ということを綿々とつづった思いがけない手紙でした。そんな手紙が来るとは予想もできませんでした。
そのころ私は、フルタイムで仕事をし、慣れない通勤の道のりや、今までしたことの無い家事に奮闘しながら目まぐるしい日々を過ごしていました。確かに母に対し「元気にしている?」と声を掛ける余裕もありませんでした。
すぐに謝りの電話は入れましたが、若い私は「こんなに頑張っているのに、私の様子も分かってもらえないのか‥」と母の寂しさより私のことを分かってもらえない悲しみを強く感じた苦い思い出です。
今ではその時の母の寂しさが痛い程分かり、本当に悪いことをしたと今更ながら亡き母に謝り直したい気持ちでいっぱいです。
まだ引っ越し前なので、長男の巣立ちの実感はないですが、一つ一つ手続きが進み、刻々とその時が近づいています。親の皆が一度は通る道なんでしょうね。
(「木族」2022年4月号より)
新築マンション(建設中)を購入された若いご夫妻から、収納や片付けの方法を教えて欲しいとご依頼を頂きました。今住まわれている賃貸マンションでのお打合せ。「片付いてなくてすみません…」と申し訳なさそうにされていましたが、見せて頂くと、お二人の生活には少し手狭な広さで、二人の趣味のモノがリビングにあふれているだけです。新居は広くなるので、問題なく片付けができそうで、片付けの基本とポイントの説明だけをして終わりました。本来なら次は新居の確認ですが、それをするまでもありません。
見せてもらった新居の図面は、豪華なパンフレットの中にある平面図1枚。以前、比較的新しいマンション改装のご依頼の時にも見たことのある、大まかな寸法とコンセントの位置等が記載され、間取りと畳敷がわかる程度の図面ですが、現場調査時は参考になり、あると助かります。
収納の広さを気にされていたので、図面に描かれている収納部分の説明をすると「え?そんなふうになっているのですか?」と言われ、パンフレットの写真を見ながら細かく説明したら理解されました。マンションのショールームで仮の室内を体験したようですが、この図面やイメージ写真が頭の中では繋がってなかったようです。設計からでなく営業さんからの説明しかないとなれば尚更でしょう。
マンションの建設用図面の枚数は、戸建て住宅より遥かに多く、そこまでお施主様が目を通す必要性はありませんが、人気の住宅地で高額なマンションなのに、その購入の判断をするのに豪華なパンフレットに平面図1枚だけしかないのはもの足りなく感じました。
それと共に、図面に携わる仕事をしている人以外、図面がわからないのは当たり前なので、図面の枚数以前に、担当者と一緒に、分かっていただけるまで確認をすることがお互いに大切だ。私も気が引き締まりました。
(「木族」2022年2月号より)
もう30年前になりますが、快適になる住まいづくりを心掛けるきっかけになったのが、結婚をして家事や生活をするのが嫌になる(?)ハイツに住んだ経験からです。
それまで私は実家暮らしで、母が専業主婦だったこともあり、恥ずかしながら家事を全くしていなかったので、初めてのことばかりで大変でした。
毎日家事と仕事に追われましたが、やっと一通りのことに慣れてくると、家の間取りと方位のことが気になってきました。
陽射しのことが全く考えられていないハイツで、朝早くから洗濯物を干してもお昼には陰ってしまい、特に冬場は洗濯物が全く乾きません。
西日が強く入るダイニングキッチンは、夏は暑くて首にタオルを巻きながらの夕食作りでヘトヘトになり、窓のない暗いリビングのほうが涼しいので、外が明るい時間帯にもかかわらず照明をつけて食事をしました。
本当に欲しいところに陽射しが入らないだけで、こんなに家事や生活がしにくいかと痛感しました。
改装や新築(建て替え)のご相談をいただきお住まいを拝見させていただくと、デザインを優先したのか、陽の入り方や風の通りが悪かったり、家事をしたことのない方が設計したのか、家事動線の悪い間取りだったりします。
なので過去の経験から、日本の風土に合った国産材を適材適所に使い、家事動線の良い間取りで、風通しや日当たりが良く、永く心地よく住める家を施主様と一緒につくっていく様心掛けています。施主様から「心地良く過ごしています」とお引越し後に言っていただくのが私が設計という仕事をするやりがいであり喜びです。
もし、陽当り、風通し、間取りでお悩みなら、お気軽にご相談下さい。ひょっとしてその住みづらい場所を、365日快適な空間にしましょう。
(「木族」2021年12月号より)
私も50歳半ば。体調というか身体の働き?が以前と変わってきていることを実感しています。
ちょうどコロナ前に体調が優れない日が続き、もしかして…と思い血圧を測ると少し高め。
母が同じく50歳代で高血圧になり、亡くなるまで血圧を下げる薬を服用していました。母は胃腸が弱く薬も負担で苦労していたので、私はその薬を飲むことにとても抵抗があります。
その時はまだ少し高いだけだったので真剣に調べることなく、今思い返すと、コロナで一時期仕事のペースが緩くなり、長女と一緒にウォーキングする時間も増えたためか、自然と体調も戻っていきました。
しかしこの春頃から、再び体調が優れず疲れがとれない感じが続いて、更年期かなぁ…と思いつつ、7月に夫から「血圧測っている?」と聞かれ恐る恐る血圧を測ると前より高く、慌てて薬を使わず血圧を下げる方法を調べました。
心を決めてできることから実践し、最近やっと血圧はほぼ正常値まで下がり、ひと安心しているところです。
そんな折、海外に住む友人がSNSで紹介していた建築家・安藤忠雄さんのインタビュー記事に、思いがけず励まされました。
79歳になった安藤さんは、ガンの手術で2回に分けて5つの臓器を摘出されているにも関わらず、ガンを患う前より体調がよいそうです。理由は、主治医に「2つだけ守ってもらえれば、元気に過ごせます」と言われ実践されているからです。
ひとつめは消火器系の内臓負担を軽減するために食事をよく噛み40分かけること。『耳が痛い』という人も多いと思いますが、日本人の平均食事時間は10分。案外できていないことなんです。
ふたつめは、1日1万歩は歩くこと。これは私も今、できる限り実践しています。これも意識しないとできないでしょう。
そして何より励まされたのは、安藤さんがご自身の事務所の所員さん(50歳)に掛けられた言葉。「今から新しいことを始めても80歳までまだ30年ある。気持ち次第で、これから先いくらでもチャンスはあるよ」
老いを感じ始める50歳代。身体だけでなく心も老いていきそうになりますが、今の私にとても沁みた言葉でした。何事もあきらめずにがんばりましょう!
(「木族」2021年10月号より)
我が家を改装して早5年。杉板フローリングの足触りは四季を通してとても心地が良く、年々色が深みを増し、艶も出てきて良い感じです。未だ香りもしています。杉材はとてもお勧めなのですが、化学物質過敏症の方は、杉材からでる匂い(天然の化学物質)にも反応されて難しい場合もあります。
4年前に設計した60代の化学物質過敏症のお施主様は杉の香りは大丈夫でしたが、病気になっても入院できず、老いても施設へ入所できないので、安心できる終の棲家が欲しいと切実な想いでした。住んでいなかったご実家に戻られ、古い家を改装しようと思われたようですが、床下からの防蟻処理の臭いで難しく、新築でゆっくりとしっかり一つ一つ確認しながらの住まいづくりになりました。
計画途中に同居されている80代のお母様が転倒して介護が必要になり、室内に新しい介護ベットを運び込んだとたん、お施主様の身体が反応し、その部屋に入れなくなりました。簡単な形のベットなら杉材でも造ることはできますが、介護用は機械を組み込むので難しく、結局、長くお店で展示して臭いが抜けた物を介護士さんが見つけてなんとか凌げました。家具の選定も大変です。
移り住まれてからもお元気そうにされていましたが、この春、昨年秋から隣地の田んぼに散布された農薬が原因で体調を崩されているとお聞きし、とても心配です。計画時から農薬散布の時期も持ち主に確認して、高いブロック塀で遮り、外気を極力室内へ入れないようにしていても、農薬散布は毎年のことですし、無農薬に変えてもらうことも難しいです。
現在マンション改装工事中の方は、杉材は無理ですが、室内用水性木材保護塗料を塗布して1ケ月程置くと身体が反応しにくくなることがわかりました。かといって多用は禁物なので、収納の床のみに使いました。詳しくは次号の施主の本音でお話し頂けます。大規模改修が今秋にあり、塗料の臭いもですが、ベランダに干す洗濯物の洗剤の臭いが、マンション全体に掛けられる養生シート内で充満することを恐れられています。
空気には境界が無く、ご本人だけの防御にも限界がありますし、生活もあるので人から離れた所に住むこともできません。まずは現状を知ってもらうことが大切かと思います。
(「木族」2021年8月号より)