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「朴訥の論」コラムの記事一覧

ブルーオーシャンを泳げ

朴訥の論

ベランダの小さなサボテンがピンクの花をつけ、お天気のありようで開いたり窄(つぼ)んだりまるで意志があるようで健気に感じる。

 

先日、条件付き土地を購入し現在建築中の友人から相談があった。年明け早々に工事着工したものの、工事が進まずストップしているという。理由は大工さんがいない為だとか。

 

建築関連業種の人材不足が言われて久しいが大工職は2013年の40万人から2022年には29万7900人と、ここ10年で10万人も減少している。その建築メーカーさんも受注を手一杯受けたものの職人さんの手配が追い付かず、やむを得ず工事が中断していると思われる。

 

建築は出来る箇所から先にやればいい、というものでもなく、施工順が後先になれば何らかの支障をきたす。

 

大工さんの高齢化と、若い大工を根気よく育てるゆとりある親方も少ない。働き方改革が職人の世界にも浸透しているのか、一昔前のように早朝から夕方暗くなるまで働く職人さんは殆どいない。また、時間外の作業を容認する現場も存在しない。

 

一般的に都市部では、作業時間を朝8時~夕方5時迄と制限が求められ、一部では朝9時からという地域もある。マンションでは音の問題もあり朝9時~夕方5時迄となり土、日の作業も禁止されている。

 

稼働時間が6時間であっても一日の工賃は変わらず、作業日数が増えることになる。工程が逼迫しても、稼働時間の制約で頑張ることも出来ない。

 

人を育てるには資金力と忍耐がいる。また最近の若者の傾向として2、3年で転職を繰り返すことが多く、イロハのイを覚えた段階で手放すことになる。特に技術職が実を結ぶには相当の時間を要し、育つ方も育てる方も忍耐とやる気がなければ成り立たない。

 

40年近くお世話になっている畳屋さんがいる。周りの畳屋は殆どなくなり結構忙しくしているが、歳と共に畳の運搬が堪えると話されていた。最近、若い方が入ったと聞けば、何となくホッとする。

 

大工・左官・木製建具・瓦屋根屋さんなど、日本建築に欠かせない長い業績のある職種ばかり、一代で終わらせるにはあまりにも惜しい。

 

あと一踏ん張りし、抜け出た先の大海原を悠然と泳ぎたいものだ。

 

残されしものが報われると信じて。

 

(国産材住宅推進協会・代表=北山康子)

~2025年木族6月号より~

小さな声が重なって

朴訥の論

先日、富田林の「つながりサポートセンター」さんの改修工事の完成引渡しに同行した。

 

食品ロスを軽減することと、地域の人の食のサポートとして、不要となっている食材を提供する企業や商店から食材を受け、各こども食堂等に適切に配布することを目的とされている。また、センター内でボランティアによる食堂も運営し、子どもに限らず様々な事情で食に恵まれない高齢者にも提供されるようだ。

 

ここまでの形に地域をまとめ上げ、行動されていることに感動する。各地で同じような活動が広がりを見せていることが何より嬉しい。

 

先月、1人いる母方の叔父から電話が入った。

「わし1人になってしもてなぁ」。奥さんは認知症に要介護となり長男の近くにある施設に入所したという。

 

叔父は高度成長期に腕のいい造付け家具職人として、繁忙な時期を送った人だ。ただ酒癖が悪く母を随分困らせていた。

 

最初の奥さんは女児(Kちゃん)を未熟児で出産した後、体調が回復しないまま亡くなってしまった。未熟児で生まれたKちゃんは障害児で、医師から長くは生きられないと宣告されていた。

 

その後、迎えた後妻さんは、Kちゃんに実母と変わらぬ愛情を注ぎ、あれほど周りを困らせた叔父も後妻さんには感謝しかなく、驚くほど穏やかに変化していった。

 

後妻さんはKちゃんが43歳で亡くなるまで寄り添い、毎日、障害児の作業所まで自転車での送り迎えを欠かさなかった。意識がなくなるまでKちゃんは「お母さん」の手を離さなかったそうだ。

 

ひっそりと送る家族葬を想像していたが、それを覆すように作業所の先生や友達が花を手向け別れを惜しんだ。

 

Kちゃんがどれほど多くの人と関わりをもって生きていたかを目の当たりにし、驚きとともに心の和らぎを覚えた。言語もままならないKちゃんが後妻さんにそれほどまでに心を開き、信頼するには、言葉で表せないほどの苦労があったことだろう。

 

Kちゃんが亡くなり2,3年が経った頃から、糸が切れたように後妻さんの体力は落ち、認知症状が現れたという。叔父は渋ったようだが長男に諭され介護施設に入所された。

 

考えてみれば叔父夫婦はKちゃんに育まれ、やがてかけがえのない絆で結ばれていったのであろう。Kちゃんの短い人生を輝かせたのは、家族のみならず彼女に触れ合った全ての人たちだった。

 

こども食堂の大きな功績は、食に留まらず小さな声がけの積み重ねかもしれない。

 

(国産材住宅推進協会・代表=北山康子)

~2025年木族4月号より~

進化する土地探し

暮らし下手, 朴訥の論

家づくりに携わるものとして、最も頭を悩ませるのが予算と土地の確保です。社会情勢に合わせてじわじわと土地の価格も上昇しており、予算内で良い土地を見つけるには、今まで以上に体力と時間が必要になってきています。

 

今までの土地探しの方法といえば、複数の土地情報サイトを定期的にチェックして公開物件の情報を地道に収集するか、不動産屋さんを巡って、非公開物件を足で探すかが基本でした。建築士事務所民家でも、提携する不動産屋さんと地道な土地探しを基本としていましたが、なかなか良い物件をスピード感を持ってご紹介することが出来ずにいました。

 

地道で時間のかかる土地探しに何か方法は無いかと考え、今年から土地探しのアプリを導入することを決定しました。手元のスマホを使って気軽に土地探しができ、土地情報サイトだけではなく、不動産屋さんしか見ることが出来なかった非公開物件も掲載されているため、土地探しのお手伝いに強力なツールになると考えています。

 

連絡を頂き建築士事務所民家からアカウントを発行すれば無料で使えます。土地探しの方法も進化しており、判断力とスピードがますます重要になってきました。同じ土地を求めるライバルに差をつけるためにも是非活用して頂ければと思います。

3月8日に土地探しセミナーも開催されますので、是非合わせて参加頂ければと思います。

 

(建築士事務所民家・設計部=中津真)

~2025年木族2月号より~

全てにドラマあり

朴訥の論

コープ自然派さんと進める「自然の住まい協議会」の会議で、久しぶりに「あかね材」の名前を聞いた。

 

15年前に松阪木材協同組合さんから案内を受け「あかね材」を知った。「スギノアカネトラカミキリによる被害材が見た目がよくないということだけで、低価格の売りづらい市場で流通しています。大学の協力で科学的に検証し、耐久性、強度ともに問題がないことが分かりました。そこで環境に貢献するエコブランドとして関係者に案内しました」とあった。

 

スギノアカネトラカミキリは杉、ヒノキの枯れ枝に産卵し、孵化した幼虫が樹幹内に入り3~10センチ食い進み、再び枯れ枝に戻り成虫となって出ていく。成木になるころには既に存在しない。虫食いや飛び腐れとして各地で苦慮している問題でもある。

 

40~50年をかけ大事に育てた木が、僅か2、3センチの虫にその価値を奪われたとなれば泣くに泣けない。見た目だけの問題であれば柱が壁の中に隠れる大壁仕様であれば何の問題もなく使える。唯一の条件は、ビルダーとお施主さんの理解力の不可欠にある。

 

変色した部分を取り除き家具や玩具などに利用されていたが、平成22年に「あかね材認証機構」を設立し、同じ問題を抱える県(岐阜、愛知、兵庫、奈良、和歌山、鳥取)と連携し、情報の共有を図っているという。主に公共建築物を中心に積極的に利用を促している。

 

衣・食・住あらゆる分野で産地偽証や隠ぺいがまかり通る世の中でマイナスと成りかねない事を公開し、販売促進につなげるには相当の努力を要す。根気よく「あかね材」のPRを続けて欲しい。

 

最近スーパーでも見かけるようになったが、訳アリ商品や、商品ロスを無くそう、棚の手前の商品から撮りましょう、などの呼びかけも生活者の理解を乞う商店主の切実な叫びだろう。

 

先日、テレビで「リサイクルの服にタグをつける」が紹介されていた。リサイクルに出す服のエピソードや想いをタグに描いて展示するというものだ。来場者はそれを読むだけでもその服への愛着を感じ、その人となりも見え楽しいという。もはや服という概念を超え、そこにドラマを見る。

 

あかね材も、家も、また然り、壮大なドラマを有す。

 

(国産材住宅推進協会・代表=北山康子)

~2025年木族2月号より~

「伐り番」と「世話番」

朴訥の論

40年間「木訥の論」を書き続けているが、その中から心に止まった内容を再度紹介したい。(平成20年5月1日分から)

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それぞれの状況下で先祖から山を受け継ぐ人がいる。都会で生活する人間には山を継ぐことがどんなことか想像もつかない。

 

京都・京北の人は言う。「収益に繋がらん山を夫婦で毎日世話したもんや。恐らくうちの子はゴールデンウイークもなんもなかった。食べていくのに必死で春先には土筆やヨモギ、山菜が頼りやった。

親父の時代には杉1本が2万5千円にも売れた時代もあったけど、山を守るに伐る番と世話番がある。受け継いでから一つもおいしい思いはしてないけどそれが良かった。おいしいことがあったら余計なことを考える。自分の番は世話番や思てますのや。」

 

山は個人のもんであって個人のもんやないを主張する家人は、地域で林学を学ぶ学生さんに教材として5町の山を提供する。木の生長とともに、その若者が社会に出、生の体験として職場に生かされていると聞くことが何より嬉しいと語る。

 

和歌山ではウベメガシで備長炭を焼く母娘がいる。今、グルメ思考、備長炭は何かともてはやされるが不安は尽きない。現在ウバメガシの生産全国一を誇るが、それも伐り続け手入れをしない状態が続けば、やがて備長炭は過去のものになる。

 

近畿の山の荒廃は目に余るものがあり、間伐もされていない山が目立つ。何とかならないかと、林業関係者にはたらき掛けるが良い返事はどこからも聞こえてこないと嘆く。

 

植林には助成金が支給されることもあって順調に進んでいるかに見える。しかし、目を凝らせば計画的に植林されたとは考えにくいものもあるとか。林業の荒廃する山村はますます高齢化を招く。

 

急峻な山に登れない老夫婦が、手をたずさえ苗木を背負い、畦道に植林する行為があったとしても誰が責められるだろうか。

 

「山が笑う」おいう言葉は好きだが、山に嘲笑されることは免れたい。全国に苦渋の選択を迫られている世話番の方が大勢いると思うが、とにかく、山をあきらめないで。

 

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それから18年、各地で山の活性に尽力されているが、獣害・豪雨に人手不足と難題が山積みだ。世話番の方たちは上手に伐り番の人に繋ぐことが出来ただろうか。

 

(国産材住宅推進協会・代表=北山康子)

~2024年木族12月号より~

 

 

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