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再造林のゆくえ

朴訥の論

3月に寒の戻りがあり、嵐のような激しい雨風に天の怒りさえ感じたが、それに耐え花を咲かせた桜の健気さに心を打たれる。

 

山に植林されたスギや桧は40年から50年かけて育てられ、伐採したのち柱・梁などの建築資材として使われる。近年、林業従事者の不足もあってか択伐(山林の中から選別して伐採)が多く、皆伐(山林の全てを伐採する)は伐り取った後植林しない山林が目立つこともあって、悪印象を持たれることがあった。

 

元来、人工林の場合、育林し伐採後、裸になった山の地拵えを行い、植林し、若木に蔓草などが絡まないよう下草を刈り、間伐を繰り返しながら成木になるまで育てる、といったサイクルが当たり前に行われていた。ところが林業従事者が減少し、30年前に6万人いたという育林従事者は2万人を割り込み、伐採を専門とする従事者は2万人前後と10年以上横ばい状態が続く。

 

高性能の林業機械の導入で若者が比較的働きやすい環境にあるが、肉体労働を伴う育林は敬遠されがちで自ずと育林作業は遅れがちになる。全国の再造林率は30~40%だそうだ。

 

3月、高知県から木材産業振興課の方が来られ再造林についてお尋ねした。Woodショック以来、国産材の需要が増加傾向にあり、皆伐が増えているが再造林は40%に留まっており、70%を目標に努力中ということだった。

 

そんな折、コープ自然派とNPOで構成する「自然の住まい協議会」の「NPO里山の風景をつくる会」から提案があった。高知ゆすはらで進める「地域おこし協力隊」に集まった造林チーム「きりかぶ」の若者6名が再造林に意欲を燃やしていると聞く。この取り組みにまち側としてコープ自然派が関わりを持つことが出来ないかというものだった。山とまち共に50年後の森に想いを馳せ、活動が広がることを願うという。

 

再造林にはお金の問題も多くのしかかる。1ヘクタールに要する造林の初期費用は180万円掛かるという。再造林に70%の補助金が出たとしても50年後に山が潤えるほどの収益は望めそうにないと聞く。一口に50年というが並大抵の年月ではなく、ピクニック感覚で参加できるものでもない。

 

今まで成功例を見ない山とまちの協働で再造林が形になれば、第二第三の「きりかぶ」が生まれる。

 

ゆすはらに灯った若い熱意が昇華することを心から願いたい。

 

(国産材住宅推進協会・代表=北山康子)

~2024年木族4月号より~

 

 

Mさん、ありがとう

朴訥の論

昭和59年に当協会が発足し40年になる。かかわった家は800棟を超えるが、どの方も家づくりに一方ならぬ思いで取り組まれ、一様に環境意識に長け、考えれば世に先駆けてSDGsに取り組まれていたようだ。

 

とりわけ印象に残るのは兵庫県のMさんだ。協会イベントの常連さんであり、京都の床柱や竹林ツアー、淡路瓦や木製建具工場のバス見学、兵庫、奈良の山林視察ツアーなど数え上げれば切りがなく、参加者さん同士が連携を取り、情報交換をされていた。

 

設計の打合せにほぼ1年をかけ、念願の数寄屋造りの家が完成した。ご主人のこだわりは二室続きの和室と2間の本床に書院造りと広縁があることだった。

 

打合せは専(もっぱ)ら奥様が行い、竹小舞に土壁、室内は中塗り仕上となり、ほぼ大工と左官職人の技術に頼る家となった。延べ面積70坪(210㎡)がご夫婦の暮らしには負担かとも思われたが、温めていた夢を覆すには至らなかった。

 

圧巻は廊下や広縁に入川畳(いりかわタタミ)を採用し、使った畳は48畳に上った。もう一つのこだわりはキッチン、浴室、洗面所など家族が使う場所は質素に徹し、ことさら住宅設備機器はコンパクトな物を選択された。トイレも来客用と分け、自宅用は簡素なものだった。

 

当時、シックハウスがクローズアップされた時期でもあり新建材は殆ど使わず、土壁に混入する藁(わら)スサまでも無農薬の稲藁にこだわられた。床下の束石を固定するため接着剤を使ったことで大叱責を被った苦い経験もある。とにかく完成引渡し後、燃え尽き症候状態が続いたと語っておられた。

 

年明け早々娘さんから連絡があり、Mさんの訃報を知った。年末何度か電話を入れていたが、コロナの後、体調を崩し、8月に亡くなられていたそうだ。「色々考えたのですが、この家に住む事にしました。つきましては施工した民家さんにリフォームの相談をしたい」ということだった。生前Mさんが口癖のように「一生懸命建てたけど、この家に娘家族が住むかどうか分からない」と、寂しそうに話していたことを思い出した。確かに若いご家族が暮らすには広くて使いづらい。

 

リフォームの計画は、水回りを考え、ダイニングに続く畳の部屋を杉板にし、仕切りを外し家族がいつも集える場所に。

 

少しでもご家族がこの家に愛着が持てる提案になれば嬉しい。床の間には、仕事をやり終えたような満足げなMさんの遺影が飾られていた。

 

(国産材住宅推進協会・代表=北山康子)

~2024年木族2月号より~

 

ゼロ円の家

朴訥の論

昭和55年当時、住宅産業は盛んで建てれば売れるという時代でもあった。その分粗悪な住宅も多く、欠陥住宅で悩む人も多かったが、ほとんどが泣き寝入り状態だった。その支援として立ち上げたばかりの設計事務所で、生活者の相談にのるという仕事を手伝っていた。

 

連日窓口に訪ねてくる人はその悔しさを長時間かけて訴える。床下に雨水が流れ込み天井にまでカビが発生した家や、解体した廃材を埋め立てた上に家を建てる等、目を疑いたくなるものもあった。家を建てたが為に苦しむのであれば、建てない方が良かったのではとさえ思った。

 

そんな折、通勤していた電車の窓から淀川の河川敷に建つ掘立小屋の前で、親子が毎朝キャッチボールをしている姿に幸せを感じ、家の価値とは何だろうかと考えたことがある。

 

先日、高知県の梼原山林バスツアーで参加者の自己紹介を行った。それぞれが参加した理由などを話す中で「私の家はゼロ円の家」と公言された方がいて、屈託のない話しぶりに皆さん興味を持たれたようだった。

 

2,3カ月ほど前の事、ご親戚の中古住宅を購入後、リフォームをしたいので調査して欲しいという依頼を受けた。現地調査に行ったスタッフから報告を受けたが、内容は雨漏りも見受けられ、床の状態も悪くおそらく蟻害があるという。口を揃えて購入は考え直した方が良いということだった。

 

内容を報告したが、数日後の返答「購入してリフォームします」に一同驚いた。ある程度の耐震補強と住宅設備機器の入れ替え、床・壁の改修工事となれば延床面積20~30坪の家であっても2千万円前後を要する。

 

ところが条件は年内の完成と、後10年持てばいいので予算は500万円までに抑えることだった。余程の覚悟がなければそんな決断を下せるものではない。

 

話によると、ご子息の家族が引越してくるにあたり、マンションに犬の同居を打診するが許可が下りず、犬が難病を患っていることもあり決断を急がれたようだ。周りから猛反対を受けたと言うが、その大決断が犬の為だったことに猶更驚かされた。

 

全てを納得し、先を見据えた決断は間違いなく、その家はゼロ円の家でなく唯一無二の価値ある居場所になる。本当の家の価値は価格でも大きさでもなく、本人でしか推し量れない。

 

「大事な箇所の柱が朽ちています」=今、施工中の現場では、設計・現場監督・職人さんの知恵を絞った攻防が展開中だ。

 

(国産材住宅推進協会・代表=北山康子)

~2023年木族12月号より~

時を経て活きる設計図

朴訥の論

新大阪から事務所を三国に移転し早や14年になる。スタッフが一人増えたこともあって、部屋の模様替えをすることになった。先駆けて、後ろのスチール棚に手を付けた。

 

赤茶けた図面の束を開けば、懐かしい手書き図面のコピーが出てきた。建築士事務所民家に16年在籍し、多くの木造建築を世に出したO氏の図面だ。

 

ある時、口下手な彼が放った一言が鮮明に記憶に残る。

 

「私ほど木構造が分かって、図面を引く建築士はいません」その時は正直なところなんと傲慢な人か、と耳を疑った。

 

A3の用紙にビッシリと引かれた図面は、隙間がないくらいにあらゆる寸法が書き込まれている。書き込み過ぎて読みづらく、施工する職人さんは嫌がったが、整合性に微塵の狂いもなかった。

 

友人の建築士に見せれば自分の事務所には要らない、と一蹴された。お世辞にも美しいとは言い難いが、改めてじっくり読めば痒い所に手の届く内容に舌を巻く。収まりの分かりづらい箇所は、拡大図が添付され施工詳細が示されている。部下の中にはO氏から何も教えてもらっていないと言う人もいたが、この図面を見て教わらなかったは通用しない。

 

当時は遅々として進まない設計に苦言を呈することもあったが、今なら少しは理解できそうだ。ここまで詳細に書き込むには彼なりの自論があった。「現場に行かなくても図面を見れば分かるようにようにしておきたい」口下手で頑固な彼らしい言い分だった。

 

今なら物議をかもしそうな勤務状況で、日中はゆるゆると過ごし、夕方6時頃からエンジンがかかり、夜10時頃まで図面を引く。お施主さん宅で、朝10時からスタートした打合せが延々と続き、翌朝になったことがある。雄弁なお施主さんの話に区切りをどうつけるか、迷ううちに夜が明けたという。

 

仕事はその人となりを映す。今20年~25年を経過し、O氏が手掛けたOB宅の改修・補修工事の依頼が多い。描き過ぎて読み辛かったその図面が、後輩建築士の手元を照らす。無口な割には語りつくせないほどの逸話も残している。

 

そんなこんなを思い出しながら見ていると、赤茶けたコピー図面も宝物にさえ感じて廃棄するなんて気にはなれない。

 

時は今、ペーパーレス時代。はてさて、棚の整理はいつ終わるやら。

 

(国産材住宅推進協会・代表=北山康子)

~2023年木族10月号より~

対等の立場で・・・

朴訥の論

体温を超える酷暑が続く中、皆様にはいかがお過ごしでしょうか。

 

先日、友人が交通災難にあったと言う。仕事を終え車で帰宅途中、わき道から飛び出した自転車が車の後方に接触し転倒した。大丈夫です、と60歳位の女性は言ったが、通行人が警察に連絡したそうだ。現場聴取は30分を超えたが、聴取を受けたのは車の運転手のみで自転車への聞き取りは一切無く、理不尽さを感じたようだ。

 

踏切前で時速25キロの走行でもあり、幸い相手に怪我も無く収まったが、警察曰く「例えアタリヤに当てられたとしても車が悪い、そういうことだ」と強調された。罰金は支払ったが、自転車に対しても注意を促す言葉が警察官からあって然るべき、と悔しがった。

 

何か問題が発生した時、余程のことがない限り、片一方だけに非があることは稀であり、双方に何らかの要因があるものだ。近年の自転車のマナーの悪さも気になるが、電動キックボードの法改正が輪をかけて事故を誘発しないことを願いたい。

 

話は変わるが、自然素材を多用する建築もまだまだ一般に理解されにくいことが多く、工事契約時に添付する特記事項書の枚数が増えていく。当初A4の用紙1枚だったが、現在は4枚、45項目に及ぶ。殆どが常識的なことを表示しているが、建てる側の常識が一般に通用するとは限らない。

 

契約に関すること、施工に関すること、木材や塗り壁の注意点。住宅設備機器に関すること等詳細に明記している。

 

しかし特記事項を何枚重ねても意志の疎通が図れたということにはならない。そこに至るまでには双方に信頼関係が生まれるほどのキャッチボールが必要になる。

 

私たちは素人だから、は問題が起きた時によく聞く言葉だが、プロもお施主さんの意志が伝わらない以上、良い提案など生まれる筈もない。新築・リフォームに限らず、忖度なしの会話が成り立ってこそ、納得できる結果につながる。

 

また、一番難しいのは感覚によることが多い。高さ、広さ、音、色合い等々、人は同じ感覚を持ち合わせていない。なおさら、双方に納得のいく確認が求められる。提案はさせていただくが、現在の生活に照らし判断を下すのはお施主さんに他ならない。

 

お施主さんと施工者はあくまでも対等の立場にあることを、お互い大切にしたい。

 

(国産材住宅推進協会・代表=北山康子)

~2023年木族8月号より~

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