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国産材コラム

心地よい風を通す

朴訥の論

ある雑誌のエッセイに普段着のことが載っていた。服装には3段階TPOに分かれ正装・外出着・普段着とあるが家で過ごす時はTシャツにジャージなどで寛ぐことが多い。還暦を過ぎ子供達も家を出た時、暮らし方を変えようと考え、普段着をやめて少しお洒落をして過ごすことにした。そうすることで日常生活にも変化が生まれたという。朝食のテーブルに小さな花が挿され、セッティングにも工夫が生まれ、暮らしにゆとりを感じたそうだ。

 

そういえば思い当たることがある。30代半ば、シングルマザーの友人がいて、決して華やかでなく寧ろ質素ではあるが、いつ訪ねても身だしなみが良く、もてなし方が自然で所作に優雅さが漂っていた。氏より育ちか、と思っていたが、今考えれば日々の生活を大切にし、暮らしを楽しむという彼女なりのポリシーがあったようだ。

 

言わずもがな部屋はいつも整理され、季節を感じさせる設えがあった。目配り気配りが行き届き、感性の冴えた人だった。

 

彼女に見習い、新しいマンションに引っ越した折、広々と片付いた部屋に道の駅で買った桜の花を生けたことがある。10日間程、花見酒と洒落込んだが、部屋の隅にモゾモゾと動く数匹の毛虫を発見し、悲鳴と共に桜は敢え無く没となった。

 

以来、わが家に枝物の生花が活けられることはない。所詮、憧れに過ぎず、彼女の精神とは程遠いものであることに気づかされた。

 

中身が良ければ外観なんて、という方もいるが、身だしなみはその人の内面を映し出す。職場にあってもスタッフの服装には敏感になる。言わずもがな第一印象で判断されることが多いこともあるが、服装で行動が変化した経験はないだろうか。

 

ワンピースとジーパンでは言葉遣いも変わる。住まいにおいても同じこと、いつも目にする家具の定位置を変えるだけで気分も一新する。

 

先日、ナチュラルな木のある暮らしの提案「暮らしに心地よい風を通したい」という講演をさせていただいた。

 

 

新築やリフォームなど費用をかけなくても、その気があれば本棚やテーブルなど杉板などで手作りするも良し、時間をかけてなしえた達成感は得難いものだ。間違いなく杉板はその努力に応えてくれる。

 

そのあとの「心地よい風を通す」は、住まいに対するちょっとした気配りと、愛情に他ならない。誰かが言った「楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しい」とは言いえて妙だ。

(「木族」2019年10月号より)

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