寒気でこのように震え上がる正月は記憶にありません、で始まり「二日たち三日経つうちこれは一隅のチャンスと考えるようになりました。現在の場所はますます環境が悪化し、家の方も数多くの整備個所が増加しつつあります」と、便りを下さったのは20年来のお施主さん。
震災の後に相談を受けご自宅に伺ったことがある。お母さんの介護と重なり、その時はリフォームを断念されたが、一昨年居間に杉板を張るプチリフォームをされたばかりだった。
駅の近くで立地条件の良い土地が売り出されたが、建築条件付きと知り一旦は諦めたものの「完全アナログ人間の私に、生涯に一度神が背中を押してくれたと感じ、長年国産材でと願い軸組工法を勉強させてもらったが、材料、工法の違うメーカーにお願いすることを決断した」という報告だった。
便せん1枚にびっしりと丁寧な文字が並び、読むほどに送られた方の心情がヒシと伝わり深い感銘を受けた。
銀行・病院など生活に必要なものが全て揃い、定年以来続けているジョギングが可能な公園も傍にあるという。歳を重ねる程にいかに自立した生活が一日でも長く送れるかが大切であり、悩んだ末に出された決断は正しい。
日本の既存住宅数は6063万戸(2013年)その年の空家数820万戸を除けば、実際の入居戸数は5243万戸となる。建築雑誌によれば99年の省エネ基準を満たす住宅はわずか5%に過ぎず、高齢者の殆どは基準に満たない住宅に暮らしている。
室内の寒暖差で生じるヒートショックによる入浴中の事故死が、1万7千人(1年間)、内1万4千人が高齢者だそうだ。歳を重ねるほどに寒さが応え、体を冷やせば不具合が生ずることは言わずもがな、身をもって経験している。断熱性能をあげ、凌ぎやすい暮らしを確保できれば、その数字は自ずと下がる筈だ。住環境を整えることで高齢者の医療費が少しでも削減できれば、省エネと合わせて一挙両得と言うもの。高齢を迎えての決断は不安が付きまとい、是か非かどちらを選択するにも勇気を要する。ガラスをペアガラスに入れ替えるなど、取り組めることから始めれば良い。
便りの末尾に「いつ何時「木」でお世話になるかも知れませんが、その際はよろしく。以前いただいた杉の名刺、いい色になってきました」で結ばれていた。下された一大決心に心からのエールを送りたい。
(「木族」2012年2月号より)