「暮らし下手」コラムの記事一覧
長年住み続けた家をリフォームしたり建て替えたりする事を躊躇する人もいれば、気にせず実行できる人もいます。ここ最近の案件に似たような事例が重なり、環境が変わる不安や思い入れといった気持ちの側面に対してどう設計で答えを出そうかと、とても悩みました。
新築への建替えの案件では、思い入れのあった家のガラスや梁を再利用し、慣れ親しんだ「感覚」を残すため玄関の位置や窓位置を同じにして、前の家と同じ動線や風景が残るようにしました。
2階が住宅、1階倉庫のリフォームの案件では、あえて1階の倉庫に全く新しい住居スペースを作り、今住んでいる2階から少しずつ新しい家に慣れながら住み替えて行く提案を行いました。
設計として、住みやすく機能的に作ることは当然ですが、機能や理屈ではないお施主さんの想いと価格(図面の線1本が見積り金額を大きく変えてしまう)に優先順位を整理して天秤にかけるのは、なかなか苦しい作業です。
その感覚も含めて理解しようと頑張るのですが、きっとこの人ならこうしたいだろうな、ここは費用がかかってもこっちを選ぶだろうな、と、まるでお施主さんの考えがそのまま解るようになるのは、残念ながらお引渡し直前となることが多いです。
あの時こんな提案もできたかもなぁと思い返せば切りがありませんが、あの時の私とお施主さんの精一杯の答えでもあったなと、またそれが思い入れに繋がれば幸せです。
(建築士事務所民家・設計部=中津真)
~2024年木族2月号より~
「国産無垢材の家って憧れるのですが、実際高いですよね?」と先日見学会の後にこそっと聞かれました。確かに高いイメージはあるとは思いますが、その答えはYESであってNOでもあります。このあたり今一度説明したいと思います。
純粋に木材の価格だけで考えると、少し強引に言えば大差はありません。そもそも家一軒に占める構造材の価格は、住宅価格の10~15%なので、2千万円の家であれば、構造材価格は200万円程度、これが外国産材になれば半分になるという訳でもなく、価格差を大きく見積もっても、30万円程度にしかなりません。ましてや、ウッドショックや近年の外国産材の供給の不安定さを考慮すれば、材質も良く日本の風土にあった材料を長く住み続ける家に使えるなら安いのではないでしょうか?
しかし、実際に家を建てるとなると、どうも国産無垢材の家は高く見える。それは国産無垢材を使うビルダーのほとんどが「注文住宅」として新築を請け負っているからです。「注文住宅」の時点で設計費用や建築費用は、当然、量産の家とは価格が大きく変わってきます。
また国産無垢材を扱うビルダーは、当然国産材を知り尽くし無垢材を扱うのに馴れた大工の技術力が必要になります。それなりに気を使う分、合わせて見えない箇所であっても妥協が出来ないため、総じてアベレージの高い家づくりになる傾向があります。
家の価格は単に材料だけではありません。職人や見えないところにも費用がかかってきます。あえて言えば、木の値段はそれほど変わりませんが、量産の家とは一味違った丁寧な「き」の使い方に価格の差が表れてきます。
(建築士事務所民家・設計部=中津真)
~2023年木族12月号より~
2025年から新築住宅の断熱等級4の義務化が予定され、住宅の温熱環境や家づくりの工法まで大きな転換期を迎えています。
建築士事務所民家としても、自然素材を活かした高気密高断熱の家に取り組み、長期優良住宅・許容応力度計算による耐震等級3と断熱等級6を標準とし、温熱環境の計画を含む家づくりの体制を整えてきました。今年からは断熱・気密計画を専門に取り組んでいた仲間も加わり、現場・設計共に確かな土台が固まってきました。
ただ、こうして住宅の性能について文字にする事も珍しく、セミナー等でも表立って話すことをほとんどしていません。それは、住宅を数字や性能で評価したり判断することが、特に住宅の”商品化”に直結してしまい、目指す家づくりの本質が見えなくなってしまうことを懸念しての事です。
現在計画している新築の家では、松の丸太梁を再利用し、和室の意匠の裁量を大工に任せて頂けることになりました。リビングで見せる化粧の松の丸太梁は荒々しくも質感が豊か。でも曲がった松梁と天井の取り合いは気密が取りにくい。
倉庫で大工さんと悩んでいると、こんな気密部材をつかえば上手くいくのでは?と新しいアイテムを施工担当者が提案してくれました。和室の天井もちょっと面白くしてやろうか、と大工さんの企みに、そこは構造がこうなるからこっちで、手が入らないから、作る順番はこうして、気密はここで確保して・・・と、設計、施工、大工との三者で、性能や構造、意匠性の意見をぶつけながら方法を模索します。気づけば外も真っ暗で現場用の照明の下で遅くまで図面を囲んでいました。
性能だけを優先すれば、大工さんの粋な提案も、やめておこうの一言で終わってしまうところを、誰一人ゴールを変えずに道を模索するところに、そうそうこれが家づくりだよねと、心の中でニンマリする場面でした。
(建築士事務所民家・設計部=中津真)
~2023年木族10月号より~
◆住まいづくりの方向性とは◆
ここ最近、中古住宅について似たようなご相談を受けました。色々と改修すべきカ所がたくさんあるのは分かっていながら、何からどう手をつけていいかわからず長年放置したままになっている。そもそもリフォームがいいのか、建て替えが良いのか分からず、方向性が見えない、とのこと。
確かに、建て替えもリフォームもそれぞれに一長一短があり、当然答えを出すのは難しいと思います。ただ、答えが出ない、方向性が見えない、ずっと家について悩んでいるという方のパターンとして、そもそも家族の中で一人だけで家のことに悩んでいる場合が多いように思います。
例えば、父親は家に無頓着で「今のままじゃだめなの?」と暮らしに不便があることに気づかず、子どもは「好きにすれば?」と興味を示さない。こういったことが常でしょうか。確かにこれでは、話は進まないし、良かれと思って話を進めた後に家族から不満を言われるのも辛い。
そこで設計として出来ることは、とにかく家族が囲んで話ができるプランや模型、そして価格をできるだけ早い段階から用意して、皆で相談してもらえる材料を作ることだと思っています。
興味を示さなかった家族も、一度リフォームや新築の間取りを見ると、具体的な意見や要望が自然と出てきて、家づくりに興味が湧いてきます。
間取りがあれば、悩むべき問題点もはっきりして、価格が分かれば、取捨選択ができるようになります。話が動き始めるのはそこからで、何もない状態で家族と相談してもそう簡単に「家」についての話は進みません。
そもそもリフォームの相談で、何をどうしてほしいのか、内容のまとまった相談をされる方はほとんどいません。どうしていいかわからない、そのまんまを相談に持ち寄って来てくださればと思います。
(建築士事務所民家・設計部=中津真)
~2023年木族8月号より~
【憧れの広々LDK?】
先日、新築の打合せで「リビングをもう少しコンパクトにして欲しい」とのご要望を受けました。
12畳ほどのリビングダイニングを提案していましたが、家族もそれぞれ独立され、食事以外それぞれの個室で過ごすため大きさは必要ないとのこと。どうせならリビングは広い方がよいだろうと、根拠のない当たり前を基準にしていたことを反省しました。
家族4人だとこれくらいは必要かな?夫婦2人ならこれくらいかな?など基準はあるにせよ、ダイニングテーブルの大きさ、ソファーの有無、過ごし方で、必要な広さはずいぶんと変わってきます。家族が多くとも一緒に過ごす時間を親密に過ごすためコンパクトにすることもあれば、夫婦2人でもゆとりのある距離感が欲しい場合もありますよね。
過去に設計した事例では、夫婦2人の住まいで4畳のダイニング(食事はカウンター)に6畳の和室(リビング)で設計したこともあれば、同じく夫婦2人でLDK一体の24畳の広々ワンフロアの事例もありました。
また、広いLDKが欲しいと要望された時、よくダイニングテーブルの使い方を考えます。例えば、ダイニングテーブルの上にペン立てや雑多な物が置かれた一角はありませんか?新築やリフォームを計画するときに、ダイニングの近くに家事スペースや収納を確保すると、使い方が整理されて広さがなくても使いやすいダイニングになることが多いです。
海外では朝食のためのテーブルと夕食用のダイニングを分けて作ることも多いそうです。朝と夕方で光の入り方は変わるし集まる人数も変わってくるので、面積にゆとりがあれば是非提案したい間取りでもあります。
ちなみに今回は、窓を工夫して家族がそれぞれの個室からリビングに集まりたくなるほど、居心地の良い場所にしたいと思います。せっかく家族なんだから、とちょっとお節介でしょうか。
(建築士事務所民家・設計部=中津真)
~2023年木族6月号より~