国産材コラム

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「暮らし下手」コラムの記事一覧

個性と哲学が詰まっている!

暮らし下手

ネットで2万8千円の木の枝を買いました。たぶん道に落ちていた枝。強いて言えば、先が削ってあり、根元に絵具が付いているだけ。実は、大阪を拠点とするアーティストの作品で、アトリエを地域の再開発による賃上げで追い出された事をきっかけに、アトリエに残ったゴミ(?)に手を加えて販売した作品で、「土地に需要があるから価値が上がる」という資本主義の価値の変化に起因して、価値とは?アートとは?消費とは?と色々哲学のこもった作品だなと、勝手な深読みと悪ふざけに参加する楽しさで購入に至りました。

 

『こんなもの』を買うぐらいこのコンセプトが心の琴線に触れたのは、ここ最近、中古物件に触れる機会が多かったからだと思います。

 

先日、土地付き中古物件を見に行った時、不動産屋さんの話の中で「上物の価値はもう無いので」という言葉が妙に気になりました。実際木造住宅で築20年を超えると不動産業界では家の価値はほとんど無いものとみなされます。むしろ土地付き中古住宅の場合、解体費用のかかる厄介者になりかねません。

 

でもいつか、自分が設計した家がそう言われると辛いなと思いました。

 

物の価値の指標は人それぞれですが、どんなに贅を尽くしてもモノは古くなってしまいます。そうなると自信をもって価値を主張できるのは、家づくりの過程とそこで過ごした時間の価値でしか無いように感じます。

 

実際、中古物件を見に行った際に、あぁこの家は素敵だなと感心する家は、贅沢な材料を使っている家では無く、建てた人の個性がはっきり出ている家であるように思うのです。高級な設備ばかりオススメして、肝心の暮らしの提案の無い家づくりは避けたいものです。

 

さて、そんな個性と哲学の詰まったその枝は、私にとっては少なくとも2万8千円は安いと感じました。ただ、毎年の大掃除の時に捨てる捨てないの喧嘩の種になる事は間違いなさそうなので、こっそり事務所の壁に飾ってみようかと思います。

 

大変価値のあるゴミですので、どうか捨てないでください。

 

(建築士事務所民家・設計部=中津真)

~2024年木族6月号より~

 

地域活性に何ができるか…

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先日、職場近くの行きつけの定食屋さんから「ラジオの収録をするから今度遊びにおいで」と誘われました。日曜日のお昼、半分だけシャッターを開けたお店の入り口を潜(くぐ)ると、数名のギャラリ―と本格的な収録機材に囲まれたマスターの姿があり、楽しそうにラジオ収録をしている。

 

聞けば、地元密着のネットラジオで、地域で知り合ったゲストを招いて対談形式で飲みながら収録を楽しんでいるそう。

 

当日のゲストで招かれていた19歳と20歳の2人は、今年から駅前でサウナ店をオープンするらしく「そんなに大きな駅でもないし、どうしてここなの?」と聞くと、「地元だし、雰囲気が好きだから」と話した。根底には地域活性や街おこしへの想いも垣間見えつつ、力まずサラッとそんな言葉が出てくるのだから、聞いている方も心地いい。

 

工務店という仕事も地域に活かされて存続するもので、最近の活動で言えば木工教室を地域の幼稚園と共に開催している。聞けばその幼稚園の園長先生は定食屋さんのマスターと同級生で、リスナーで参加していた方は、私の職場のすぐ隣に住んでいて、と話は一気に盛り上がり、近日地域のごみ拾いを一緒に行うことになった。

 

国道沿いにチェーン店ばかりが並ぶ、特に特色のある地域でもないと感じていた町の水面下で、地元愛が育っていたことにも驚いたし、ネットラジオを中心にコミュニティーが出来ていたことにも感心した。

 

自分自身に目を向けると、じゃあ今、あなたは建築を通してこの街に何ができますか?と、建築学生だった頃にあった街づくりの課題(問い)を改めて聞かれているようで楽しい。できれば力まずサラッとした答えを出し続けられればと思う。

 

(建築士事務所民家・設計部=中津真)

~2024年木族4月号より~

お施主さんの思い入れ

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長年住み続けた家をリフォームしたり建て替えたりする事を躊躇する人もいれば、気にせず実行できる人もいます。ここ最近の案件に似たような事例が重なり、環境が変わる不安や思い入れといった気持ちの側面に対してどう設計で答えを出そうかと、とても悩みました。

 

新築への建替えの案件では、思い入れのあった家のガラスや梁を再利用し、慣れ親しんだ「感覚」を残すため玄関の位置や窓位置を同じにして、前の家と同じ動線や風景が残るようにしました。

 

2階が住宅、1階倉庫のリフォームの案件では、あえて1階の倉庫に全く新しい住居スペースを作り、今住んでいる2階から少しずつ新しい家に慣れながら住み替えて行く提案を行いました。

 

設計として、住みやすく機能的に作ることは当然ですが、機能や理屈ではないお施主さんの想いと価格(図面の線1本が見積り金額を大きく変えてしまう)に優先順位を整理して天秤にかけるのは、なかなか苦しい作業です。

 

その感覚も含めて理解しようと頑張るのですが、きっとこの人ならこうしたいだろうな、ここは費用がかかってもこっちを選ぶだろうな、と、まるでお施主さんの考えがそのまま解るようになるのは、残念ながらお引渡し直前となることが多いです。

 

あの時こんな提案もできたかもなぁと思い返せば切りがありませんが、あの時の私とお施主さんの精一杯の答えでもあったなと、またそれが思い入れに繋がれば幸せです。

 

(建築士事務所民家・設計部=中津真)

~2024年木族2月号より~

木材価格は大差がありません

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「国産無垢材の家って憧れるのですが、実際高いですよね?」と先日見学会の後にこそっと聞かれました。確かに高いイメージはあるとは思いますが、その答えはYESであってNOでもあります。このあたり今一度説明したいと思います。

 

純粋に木材の価格だけで考えると、少し強引に言えば大差はありません。そもそも家一軒に占める構造材の価格は、住宅価格の10~15%なので、2千万円の家であれば、構造材価格は200万円程度、これが外国産材になれば半分になるという訳でもなく、価格差を大きく見積もっても、30万円程度にしかなりません。ましてや、ウッドショックや近年の外国産材の供給の不安定さを考慮すれば、材質も良く日本の風土にあった材料を長く住み続ける家に使えるなら安いのではないでしょうか?

 

しかし、実際に家を建てるとなると、どうも国産無垢材の家は高く見える。それは国産無垢材を使うビルダーのほとんどが「注文住宅」として新築を請け負っているからです。「注文住宅」の時点で設計費用や建築費用は、当然、量産の家とは価格が大きく変わってきます。

 

また国産無垢材を扱うビルダーは、当然国産材を知り尽くし無垢材を扱うのに馴れた大工の技術力が必要になります。それなりに気を使う分、合わせて見えない箇所であっても妥協が出来ないため、総じてアベレージの高い家づくりになる傾向があります。

 

家の価格は単に材料だけではありません。職人や見えないところにも費用がかかってきます。あえて言えば、木の値段はそれほど変わりませんが、量産の家とは一味違った丁寧な「き」の使い方に価格の差が表れてきます。

 

(建築士事務所民家・設計部=中津真)

~2023年木族12月号より~

数字だけではない家づくり

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2025年から新築住宅の断熱等級4の義務化が予定され、住宅の温熱環境や家づくりの工法まで大きな転換期を迎えています。

 

建築士事務所民家としても、自然素材を活かした高気密高断熱の家に取り組み、長期優良住宅・許容応力度計算による耐震等級3と断熱等級6を標準とし、温熱環境の計画を含む家づくりの体制を整えてきました。今年からは断熱・気密計画を専門に取り組んでいた仲間も加わり、現場・設計共に確かな土台が固まってきました。

 

ただ、こうして住宅の性能について文字にする事も珍しく、セミナー等でも表立って話すことをほとんどしていません。それは、住宅を数字や性能で評価したり判断することが、特に住宅の”商品化”に直結してしまい、目指す家づくりの本質が見えなくなってしまうことを懸念しての事です。

 

現在計画している新築の家では、松の丸太梁を再利用し、和室の意匠の裁量を大工に任せて頂けることになりました。リビングで見せる化粧の松の丸太梁は荒々しくも質感が豊か。でも曲がった松梁と天井の取り合いは気密が取りにくい。

 

倉庫で大工さんと悩んでいると、こんな気密部材をつかえば上手くいくのでは?と新しいアイテムを施工担当者が提案してくれました。和室の天井もちょっと面白くしてやろうか、と大工さんの企みに、そこは構造がこうなるからこっちで、手が入らないから、作る順番はこうして、気密はここで確保して・・・と、設計、施工、大工との三者で、性能や構造、意匠性の意見をぶつけながら方法を模索します。気づけば外も真っ暗で現場用の照明の下で遅くまで図面を囲んでいました。

 

性能だけを優先すれば、大工さんの粋な提案も、やめておこうの一言で終わってしまうところを、誰一人ゴールを変えずに道を模索するところに、そうそうこれが家づくりだよねと、心の中でニンマリする場面でした。

 

(建築士事務所民家・設計部=中津真)

~2023年木族10月号より~

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