「古い家ですが両親の想いを大切に守り、維持してゆきたいと考えております。色々と目につく所はあるのですが、なるべく現状維持でと思っています。」
現在、神奈川で暮らす方から、神戸に遺されたご実家(築60年)のメンテナンスチェックを依頼された。閑静な住宅街にあり、一年に数回様子伺いに帰る程度のため、周りからは手放すことを薦められるがそんな気になれないと話す。
父親から亡くなる直前に懇願をされたのは「この実家を残して欲しい」だった。今暮らす家は輸入住宅と聞く、白を基調にし、お洒落で便利ではあるがこの家以上の安らぎを覚えないと言う。
ご実家はジュラク壁と床板には松が使われており、柿渋かと思われる天然系の塗装が施され美しい光沢を放つ。
杉の雨戸は風通しを考慮しガラリが付いていた。60年前と思えない暮らしの工夫に家主のこだわりが見える。この家に安らぎを感じるとすれば化学物質が少ないことと、親の愛情に育まれた温もりが残るからだろう。
先日ある住宅雑誌に大学教授のシックハウスに関するコメントが載っていた。
「近年の住宅で多く検出される高濃度の未規制物質に、無垢フローリングの木材から発生する天然成分がある。天然木の香り成分であるテルペン類の物質で、高濃度になると目や呼吸器への影響が報告されており、無垢材を使用する場合は化学物質が比較的少ない落葉樹(常緑樹は毒性が高い)を部屋の30%程度に抑えて使用するとよい」と述べられている。
確かに化学物質過敏症を発症すれば、微量であっても反応する方はいるが、アレルギーと同じで何に反応するかは人によって違う。天然素材でも安心はできないと指摘してのことだとは思うが、無垢フローリングに的を絞ったコメントに意図的なものさえ感じ、違和感を覚えた。
それ以前に問題視するべきは可塑剤や接着剤にまみれた新建材を多用し、ホルムアルデヒトのみに絞り込んだF☆☆☆☆建材さえ使っていれば良しとし、健康住宅とまで豪語するビルダーが数多く存在することではないだろうか。
今も化学物質過敏症やアレルギーに苦しむ大勢の方がいる。今年、15年ぶりに化学物質の指針値が強化されるというが、生活者も食を意識するように、住に対しても向き合って欲しいものだ。
最良の空気汚染対策は換気にあることもお忘れなく。いい季節には窓を開け放とう。
(「木族」2018年4月号より)