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国産材コラム

それでも山を繋ぎたい

朴訥の論

親から受け継いだ山の木で新築したい、と願うのは当然だろう。何度か同じような相談を受けたことはあるが、単独で山から伐り出し、製材~乾燥~加工~現場までの運搬などを計算すると膨大な費用が掛かる。結果的に流通が確立した製材所から材を仕入れる方が安価であり、殆ど実行には至らなかった。

 

ただ13年前に一度だけ実現したことがある。関西で暮らすTさんに母の遺言は家を建てるときは両親が守ってきた山(大分県)の木を使いなさい、だった。

 

幸いTさんの大分の同級生に大工さんがおり、木の伐採から製材、加工までを請けるという。大阪で設計した図面を大分に送り、木材の選別を依頼した。棟上げには大分の大工さん一家が、満載の木材と一緒に現場入りした。

 

棟上げ以降の木工事を任せる大阪の大工とコラボした上棟は感動的なものだった。大分の大工さんの提案で、5寸の通し柱を石場立てにし、土台を通し柱に差し込むという今では珍しい工法を行った。ただ粋に感じた大工さんがスギ、ヒノキだけでなく、山に生えていた樹種の異なる木を部屋ごとに床板として使いたいと主張したのには戸惑ったが、今となってはそれも懐かしい思い出だ。

 

連休前に60歳代の男性が訪ねて来られた。

 

10年前にお父様が亡くなり、兵庫県の中ほどにある50ヘクタールの山を受け継いだ。毎年かかる税金は何とか収めているが、息子の代になれば恐らく支払わないだろう、と懸念されている。

 

 

自分が元気なうちに何とかしたいと地域の森林組合に行って相談を持ちかけるが、何の解決策もないまま現在に至っている。50ヘクタールの山林のうち3分の1は地域の有志が植えた入会林野だそうだ。

 

山ごと手放すことも視野に入れ、山の売買を手掛ける不動産屋に打診されたようだ。数日後、事務所に来られ「森林の価値は500万円ですが、50ヘクタールの山の価格は50万円と提示されました。今の山の価値はそんなものなんでしょうかね」

 

家族と相談し売却は見送ることになった。

 

森林の68.8%を占める民有林だが、その保有者の殆どは20ヘクタール未満の山だ。

「手入れのできん人間が山を持ったらだめです」キリッと話された言葉が残る。

 

手入れも出来ず、山を保有することに心を痛める人は多いだろう。小さな山林保有地を束ね、国有なり公有なりの管理下で管理できる方法はないものか。

 

山を負の遺産にしてしまっていいのだろうか。

 

(「木族」2017年6月号より)

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