TOP > 国産材コラム > 見学会の心、カビ知らず・前 《山林》
(山林 2002.9 掲載)
国産材の現状と住宅建築で最低限知ってほしい内容を、ワンクール
5回とし「木造住宅講座」を開講している。内容は「設計・施工会社の
選び方」「設計図と見積書の見方」「経済的に家を建てるには」
「自然素材を生かした住まいとは」「基礎と構造の話」など、現在まで
800回(大阪・本部)を超える講座をこなしている。
受講者は主に生活者が占めるが、学生、素材業者、公務員、
設計事務所、工務店と多種多様である。
定員20人の部屋に人が溢れることもあれば、参加者がゼロの
ときもある。お盆前に若いお坊さんが1人参加したことがある。
説法されているのか、しているのか、何とも不思議であったが、
お寺の庫裏の改修を考えての参加であった。
とにかく、参加者があっても無くても隔週の土曜日に開講している。
最近は、不況を反映してか工務店、設計事務所などプロの
参加が多いのが気になる。
住宅講座だけでは生活者に基礎や構造の理解は困難であり、
国産材への理解を深める意味においても現場見学会が
不可欠となる。
関西圏では㈱建築士事務所民家が設計・施工をおこなって
いるが、そこでの注文住宅を全て一般公開している、というより
させていただいている。
工事中現場を一般公開する事はそれなりに勇気のいることである。
もちろんお施主さんのご了解を得ているが、殆どの方が建築
するにあたり基礎工事から完成に至るまでを、かつて建築中の
5、6軒の現場より学び、よほどのことがない限り半ば暗黙の了解
で建築中現場を学びの場としてご提供いただいている。
たまにご入居後の見学会をさせていただくことがある。
梅雨の半ばで気温が一気に上がった年であったが、見学会を
3日後に控えお施主さんから吹き抜けの布クロス壁に黒カビが
出たという連絡があった。駆けつけるとカビの出たあたりに
一尺五寸(梁成)の杉の梁があり、壁下地の石膏ボードが梁の
水分を吸収し、澱粉のりと温度の上昇が相まって一気に増殖
したと思われる。それだけの梁を使用する場合、殆どの建物
は構造表しとするが、階段周りの吹き抜けをシンプルにまとめ
たいという設計者の意図と、思慮不足で思わぬ結果を招いた
のである。
3日後のことであり、洗い屋を入れその場を凌ごうかとの考えが
頭をよぎったが、ありのままを伝えることも国産材住宅を薦める
上で必要であると感じた。梁部分のクロスを剥ぎ、黒カビも見学
していただくこととした。
当日は2棟の見学会を行うため、中型バスでの移動となった。
32名の参加者を前にし「実は、今から見学する住宅にカビが発生
しています。隠すことも考えましたが、現実を見て、どうしてこう
なったかを学んでください。」一瞬、水を打った状態になった。
ーつづくー