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(山林 2002.11掲載分) 自然素材とシックハウス
震災後、どこもかしこも基礎と構造の重要性を謳い込み、「耐震住宅」を
打ち出した。構造強化と簡便さで一般的に在来木造住宅であっても1軒当
たり200枚を超える合板が使用され、ツーバイフォー住宅ともなると350枚
前後の合板が使用されるという。
必然的にその接着剤やあらゆる新建材から科学物質が出る。あわせて
気密化された住宅と工期短縮もそれを助長し、化学物質を封じ込めた
まま新居に入ることになる。その直後から体の不調を訴える人が増え、
化学物質によるシックハウスがクローズアップされていった。
その結果、耐震住宅が影をひそめ、俄に「ホルムアルデヒド」と「健康
住宅」の連呼が始まった。F1合板をF0にしただけで「健康住宅」と名のり、
珪藻土壁紙を貼っただけで身体までが健康になるかに錯覚させる。
この業界には節度という言の葉はないようだ。アトピっ子地球の子ネット
ワークの赤城智美さんのお話に依れば、アレルギーや化学物質過敏症
の方に接する場合、どれだけ多くのことを聞き出せるかにあるという。
何に対しどの程度の時間と量でどのように反応し、どんな状態に陥る
のか。とくに科学物質過敏症に関しては全ての人が微妙に違い、単に
ホルムアルデヒドの数値を落として済むほど単純ではない。
最近、新築や中古のマンションを購入したが、自然素材で改築して欲
しいという依頼が多い。中には「たばこを吸わない職人さんを」といった
条件がつく事もある。1週間ほどの工事であったが、完了後、お施主さん
から指摘があった。建具職人の衣服からタバコの臭いがし、大工の道具
箱に揮発性の臭いが染み付いていたという。
あろうことかそれが原因で体調を崩した為、別注の木製ベッドの代金は
支払いませんという便りが届いた。
新築、増改築を問わず基本的に工事中の喫煙はご法度であり、各職
方とも徹底していた筈である。しかし要求はその域をはるかに超えており、
改めて聞き取りの甘かったことを痛感したのである。
あまりに一方的な不払い通知に釈然としないものがあり「ご迷惑をお詫
びすると共に、話し合いで決定すべき事項であり、衣服や道具箱の臭気
を感じた時点で職人さんに注意を促して欲しかった」と手紙を送り、何度
となく電話をしたが連絡はなかった。
その後も働いておられることを思えば、シックハウスを楯にとられたよう
で不愉快になる。しかし、精神と肉体は密接に連動するという。気の毒で
はあるが疑心暗鬼が招く精神的ダメージも大きい。
健常者はまさかこの程度でと思い、患う人は許されて当然と考え自己
主張が強くなる。何時まで経っても平行線である。いずれにせよ徹底した
伝達と聴取が不可欠であることを身をもって体験した。
つづくー