国産材コラム

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素朴で無骨で愛らしい出来

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◆大工家具

 

国産材住宅で設計施工した家に合わせて、一緒に家具も作れないかとよく問い合わせをいただきます。

 

家具の作り方にも大きく2パターンあり、1つは、家に合わせてデザインした家具を家具職人さんに造作を依頼する方法。チークやウォルナットなどの堅木を使い、繊細で、金物など細部にこだわった思い通りの家具を作ることが可能です。

 

対して、現場の大工さんが作る大工家具も人気で、比較的低価格で家と同じ素材・産地で家具を作ることができます。杉やヒノキがメインの素材となり、道具も異なるため家具職人の造作家具より無骨で素朴な印象になりますが、その無骨さがまた愛らしくもあります。

 

先日、イベントスペースのための什器(椅子としても展示台としても使えるスツール)をご依頼いただき、せっかくなので、友人の設計事務所と共働でデザインすることにしました。

 

国産材をテーマに価格を考慮して杉のパネルを主材として計画し、お互いの仕事が終わった後に夜な夜な缶コーヒーを片手に1分の1で段ボールや端材を継ぎ接ぎしながら、強度や予算、使い心地になんとか納得の行くデザインが完成しました。

 

スッキリとした見た目の割に、ホゾや相欠ぎを多用しているので、いざ作ってみると大工さんの造作時間が予定の倍以上かかってしまい赤字ギリギリでしたが、仕上がった家具に「感動」という言葉を沢山頂いて喜んで頂くことができました。

 

なんてことはない素朴でシンプルなスツールですが、考えただけの価値はあったな、と改めてモノづくりの楽しさを実感しました。

低価格で手軽に家具を買える時代になりましたが、長く使うベッドや学習机など、自身の生活に合わせて家具を作るという選択肢もオススメです。

 

(建築士事務所民家・設計部=中津真)

~2024年木族10月号より~

運命を感じた椅子たち

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私がインテリアに興味を持つきっかけになったのは、1軒の家具屋さんでした。当時アトピーに悩まされ東京の病院に通っていたのですが、その道すがら立ち寄ったお店で、アメリカの巨匠デザイナー、チャールズ&イームズの椅子に出会い、その世界にどハマリしたのです。

 

ヴィンテージ家具のショップが立ち並ぶ目黒通りを何往復もし、ネット検索でショップを見つけては立ち寄り、気が付けば家の中はアメリカンな家具だらけに。

 

シャギーカーペットを敷いて大きなモンステラを置いてピンクパンサーのポスターを飾り、薄暗い照明の中でイームズに腰かけては安いコーポで悦に浸っておりました。思い返せば黒歴史です。

 

今まで数々の運命的な椅子に出会い、手放してきました。頻繁にある運命など運命ではないとやっと悟った気でいますが、昭和レトロ家電においては、未だすぐに運命を感じる次第です。

 

(建築士事務所民家・設計部=矢野祐子)

~2024年木族8月号より~

コストや環境面でプラスになりそう

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◆木造大空間の可能性

 

昨年から木造倉庫や大空間造の問い合わせを多く頂いています。

 

一般的に倉庫といえば鉄骨造に波板を葺いた建物がイメージされますが、コロナ以降の鉄骨の価格の上昇に伴って鉄骨造の価格が上昇していること、また大規模木工造への注目度の上昇から、安価で大きな空間を実現できる木造倉庫を検討される方が増えているようです。

 

実際8月竣工で見学会も開催される茨木市の45坪の倉庫では、坪40万円以下で完成しています。

 

ただ木造倉庫で最も気になるのは構造の丈夫さではないでしょうか。実際、木造で倉庫のような大空間を作ることは構造設計について鉄骨以上に気を遣うことが多くなります。

 

高さのある壁面で受ける風や、荷重に対するたわみなど、構造計算を正しく行って安全を確認しなければいけません。逆に正しく計画できれば、コストの高い集成材の使用も最小限に抑えて、無垢材を活用し適材適所で更なる材料コストの削減が可能です。

 

完成した倉庫の構造は、無駄なく理路整然として、大工さんと昼休憩に「なんかカッコいいよね」とついつい構造を見上げながら談笑するほど。

 

木造の軽くて丈夫で環境にも優しい倉庫は、これから選択肢の一つとして定着して行くと思われます。技術の進化と共に木造の可能性がどんどん広がっているように感じます。見学会も開催されるので是非一度興味のある方はお問合せいただければと思います。

 

(建築士事務所民家・設計部=中津真)

~2024年木族8月号より~

個性と哲学が詰まっている!

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ネットで2万8千円の木の枝を買いました。たぶん道に落ちていた枝。強いて言えば、先が削ってあり、根元に絵具が付いているだけ。実は、大阪を拠点とするアーティストの作品で、アトリエを地域の再開発による賃上げで追い出された事をきっかけに、アトリエに残ったゴミ(?)に手を加えて販売した作品で、「土地に需要があるから価値が上がる」という資本主義の価値の変化に起因して、価値とは?アートとは?消費とは?と色々哲学のこもった作品だなと、勝手な深読みと悪ふざけに参加する楽しさで購入に至りました。

 

『こんなもの』を買うぐらいこのコンセプトが心の琴線に触れたのは、ここ最近、中古物件に触れる機会が多かったからだと思います。

 

先日、土地付き中古物件を見に行った時、不動産屋さんの話の中で「上物の価値はもう無いので」という言葉が妙に気になりました。実際木造住宅で築20年を超えると不動産業界では家の価値はほとんど無いものとみなされます。むしろ土地付き中古住宅の場合、解体費用のかかる厄介者になりかねません。

 

でもいつか、自分が設計した家がそう言われると辛いなと思いました。

 

物の価値の指標は人それぞれですが、どんなに贅を尽くしてもモノは古くなってしまいます。そうなると自信をもって価値を主張できるのは、家づくりの過程とそこで過ごした時間の価値でしか無いように感じます。

 

実際、中古物件を見に行った際に、あぁこの家は素敵だなと感心する家は、贅沢な材料を使っている家では無く、建てた人の個性がはっきり出ている家であるように思うのです。高級な設備ばかりオススメして、肝心の暮らしの提案の無い家づくりは避けたいものです。

 

さて、そんな個性と哲学の詰まったその枝は、私にとっては少なくとも2万8千円は安いと感じました。ただ、毎年の大掃除の時に捨てる捨てないの喧嘩の種になる事は間違いなさそうなので、こっそり事務所の壁に飾ってみようかと思います。

 

大変価値のあるゴミですので、どうか捨てないでください。

 

(建築士事務所民家・設計部=中津真)

~2024年木族6月号より~

 

地域活性に何ができるか…

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先日、職場近くの行きつけの定食屋さんから「ラジオの収録をするから今度遊びにおいで」と誘われました。日曜日のお昼、半分だけシャッターを開けたお店の入り口を潜(くぐ)ると、数名のギャラリ―と本格的な収録機材に囲まれたマスターの姿があり、楽しそうにラジオ収録をしている。

 

聞けば、地元密着のネットラジオで、地域で知り合ったゲストを招いて対談形式で飲みながら収録を楽しんでいるそう。

 

当日のゲストで招かれていた19歳と20歳の2人は、今年から駅前でサウナ店をオープンするらしく「そんなに大きな駅でもないし、どうしてここなの?」と聞くと、「地元だし、雰囲気が好きだから」と話した。根底には地域活性や街おこしへの想いも垣間見えつつ、力まずサラッとそんな言葉が出てくるのだから、聞いている方も心地いい。

 

工務店という仕事も地域に活かされて存続するもので、最近の活動で言えば木工教室を地域の幼稚園と共に開催している。聞けばその幼稚園の園長先生は定食屋さんのマスターと同級生で、リスナーで参加していた方は、私の職場のすぐ隣に住んでいて、と話は一気に盛り上がり、近日地域のごみ拾いを一緒に行うことになった。

 

国道沿いにチェーン店ばかりが並ぶ、特に特色のある地域でもないと感じていた町の水面下で、地元愛が育っていたことにも驚いたし、ネットラジオを中心にコミュニティーが出来ていたことにも感心した。

 

自分自身に目を向けると、じゃあ今、あなたは建築を通してこの街に何ができますか?と、建築学生だった頃にあった街づくりの課題(問い)を改めて聞かれているようで楽しい。できれば力まずサラッとした答えを出し続けられればと思う。

 

(建築士事務所民家・設計部=中津真)

~2024年木族4月号より~

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