当時既に現役を退いていた友人の建築士が、神戸の震災での経験を話してくれたことがある。震災時、避難所になった小学校の体育館で、数日間電気が点かず大勢の人が暗闇で不安な夜を過ごしていた。誰もが焦燥と虚無感に襲われていた。そんな時現場で覚えた経験を活かし、発電機を繋ぎ暗闇の体育館に電気を点けた。瞬間、大きな歓声と拍手が湧き上がった。長い現場監督の経験の中でこれほどこの仕事をやってきてよかったと思えたことはなかったと言う。
現場監督は一般に段取り八分といわれるが、工程に支障をきたさず材料の発注・納入や職人さんの手配をし、全て状況を掌握した上の適切な判断力が求められる。スポットライトを浴びる設計に比べ至って地味に見える職種だ。
しかしいくら立派な図面も寸分違わずその通りに収まることは少ない。そんな時、設計、職人と共に知恵を絞り、無理のない形に収めるのは監督の仕事だ。良く現場は生き物だと言われるが、これほど目配り気配りと迅速な対応を求められる仕事も少ない。
一方、現場監督は3K(きつい、汚い、危険)のイメージが強く、設計を目指す人は多いが、監督を望む若者は年々減っているように思う。願わくば設計を目指す人こそ現場監督を経験して欲しい。
一昔前は、職人になめられるなという変な風潮が設計や現場監督にあったようだが、今はお互いを尊重し、任された現場をより良い形で完成させることを共通の目的とし、協働で取り組んでいる。
千葉県柏市で国産材利用拡大を展開するスズキ建築設計事務所が創立40周年を迎えた。国産材利用拡大運動を共に行ってきた仲間でもある。その関係でご子息が大学卒業後、現場補佐として1~2年民家で勤めたことがある。
当初は戸惑いもあったようだが先輩・職人達に揉まれながら少しずつ、現場の流れや有り様を掴んでいった。あれから13年、現在は事業を継承し、現場の分かる強いリーダーとして培ってきた力量を発揮されている。
来春、建築専門校の卒業生が(株)建築士事務所民家に入社する予定だ。彼も最終目的を設計としているが、先ずは現場に入り、建築のリズムをつかみ、大工、左官など各職種とのコミュニケーションを深め多くの学びを得てほしい。
いかなる仕事であれ、真剣に向き合ってこそ初めて光を放つ。住まいづくりに楽なことは何一つないが、流した汗が多いほど達成感と感動が大きいことは確かと言えよう。
(「木族」2015年12月号より)