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国産材コラム

つくるは1回、使うは1000回

朴訥の論

折に触れふと思い出す言葉がある。大抵は母の受け売りによる。「聞くは一時の恥、聞かぬは末代の恥」「なせばなる、なさねばならぬ何事も、ならぬは人のなさぬなりけり」等言い回しこそ古いが、どの言葉も言い得ていて妙である。

 

18年前に新築をされ、現在2世帯住宅へのリノベーションを計画中のK夫人が、打合せ中にポツリと語られた。

 

「若いころ母に言われました、物をつくる時はシッカリしたものを選びなさい。つくるは1回、使うは1000回」。そういえば「安物買いの銭失い」なんて言葉もある。近年、住宅を20~30年の消耗品と考える人は流石に減ったようだ。それでも、新築・リフォームに際し、価格優先に走り、メンテナンス性や居住性、耐用年数まで考えが及ばず、価格だけで判断される方が多い。

 

先ほど集中豪雨による鬼怒川の氾濫で、多くの住宅が押し流され、鮮烈に残るあの津波を思い起こした。

 

翌日の新聞で一軒の住宅が隣家を支え、健気にも踏ん張っている姿が大きく報道され、人々の関心をかった。敷地の条件が、残る家とそうでない家の命運を分けると言えなくもないが、残るには運をも凌駕する企業努力があったに違いない。

 

時代の流れを感じるが、設立から30有余年経てば世代交代も見られ、リフォーム、リノベーションの依頼を受けることが多い。

 

 

先日、築10年目のチェックに同行し、庇で保護されている箇所と雨がかりの場所に劣化の差が生じていた。リビングから広がる木製デッキは室内を広く感じさせ代えがたいものがあるが、雨がかりは出来るだけ避け、許される限り庇の出は確保しておきたい。

 

35年間いくつもの失敗や経験を重ね、国産材の短所を乗り越えてきた自負はあるが、木は奥深くまだまだ教えられることが多い。

 

訪問して嬉しいことは20~30年経ったどこのお宅も年を経て、その表情に深みを増し、いい顔になっていることだろう。

 

住宅ビルダーの殆どが効率化に専念し、そつのない住まいづくりに転じた今も、プランの段階から見積もりの価格調整に至るまで、設計担当と一緒に考え、悩み、取り組むスタイルはさほど変わっていない。

 

「つくるは1回、使うは1000回」に応えるには、それに見合うプロとしての覚悟がいる。技術に溺れず、気配りとやさしさを添えたいものだ。

(「木族」2015年10月号より)

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