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(山林 2002.7掲載分) 産直住宅始まる・後編
産直住宅には輸送コストや不良材に対しての対応などの問題もあるが、
一番の問題点は都市における生活環境と価値観が、地方のそれと違う
ことではないだろうか。立地条件一つをとっても地方では考えられない
ような狭小地に家が建ち、交通量や道路事情など大きく係わる。
棟上げの日に棟が上がらないという大失態の現場もそうであった。
国産材を生かした構造を考えるとプレカットだけに頼ることは難しく、
今でも工場内に熟練の大工を常駐させ手加工を併用している。
延べ30坪の木造2階建て、片流れ屋根で登り梁部分のみが大工の
手加工である。上棟式とあって11名の大工が入り、屋根仕舞から
筋交い間柱まで入れる勢いでとりかかったのであるが…どう計算を
間違えたのか、14本の登り梁の寸法が足りず、桁にとどかない。
間違いは慣れた頃に起きるものである。あらゆる状況を加味しても、
チェックミスであることには弁解の余地がない。
期待と信頼に溢れたお施主さんが見守る中「棟が上がりません」と
告げるには相当の覚悟が要る。迫り来る夕暮れにねぎらいに用意
されたご馳走を目前にし、どのような言い訳が成り立つだろうか。
単純なミスであっても双方の損失は大きい。前面道路が狭く、
クレーン車も入らない現場である。苦労して上げた14本の梁を全て
手で下ろし、新しい梁が届いた段階で、再度、2名のガードマンと11人
の大工を投入し組み直すのである。この金銭的なリスクは半分を
プレカット工場に負ってもらうことになった。経費負担は請求する方
も心臓にこたえるが、それをはるかに超える信頼失墜というリスクは
補い様がなくその痛手は大きい。兎にも角にも材料が揃う1週間、
砂をかむ思いをしたのである。
全てに通用することであるが、その現場にいるといないでは感覚
に大きなズレが生じる。施主の顔が見えないことで胃の痛むような
緊張感がなくなってはいないだろうか。
産直を永くやっていることで、産直を始めたいという木材生産者
の訪問を受けることが多いが、単に木材の提供と考えるのであれば
産直住宅などしないほうがよい。産直を評して「生産者の顔が見える」
というならば、生産者も建築現場をのぞき、施主がどれほどの期待
をよせ、産直に何を求めているのか、会話を交わすぐらいの責任感
と積極性がほしい。
生産者の顔の見えない産直などありえない。産直住宅とは即ち
「人」だから。
この章はおわりー