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国産材コラム

想いを伝えて・・・ 《山林》

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(山林 2003.1掲載分) 想いを伝えて… 

 兵庫県多可郡加美町・丹治地区の部落有林の桧・杉を立木のまま

一般生活者に販売するという試みがあり、訪ねた。

 「かみ・裏山からの家づくり」と題し「山に苗木を一本一本植えてから

50年。苗木は、下刈り、枝打ち、間伐の施業を繰り返し、風雪に耐え、

森林の保水力を維持し、二酸化炭素を吸収しながら成長を続けました。

今、ようやく住宅の建築材料や木製品の材料として使える大きさに育ち

ました。家を建てるなら木造住宅と思われている方、森林とつながって

いる木の家づくりを考えている方、是非、加美町の山をごらん下さい。

1本の木が1軒1軒「木の家の物語」を創ってくれるでしょう」と生活者や

設計・施工会社に呼びかけている。

 今回は約800本の杉、桧を分譲販売することとし、立木購入をしてか

ら2年以内に伐採することを条件にしている。

胸高直径25㎝からとし、目印に赤、青、黄色のテープがすでに巻かれ

ていた。伐採費は別途必要であるが、加美町内の製材所までの運賃

は含むとしている。1棟分となれば80本程度必要であるが、あの山に

生えていたこの木という思いを満足させるのであれば2、3本でも充分

である。

 この山で採れたという立派な木材で最近落成したという公民館が

建設されており、無節も多いと強調された。1本の木でどれくらいの木材

が取れるのか、一般には検討もつかないため、実際に1本の木から木取

りした製材品を並べて見せることを提案した。

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 どの顔も育てた木に自信があり、ほっておくと無節の製材品がズラリと

並べられる恐怖を感じて釘を刺した。「中クラスのものを選んで製材され

た方がいいですよ」ユーザーの怖さを知らないと感じたからである。

 セミナーや見学会に何度か参加された方は理解されているが、素材

のみを購入される方には注意が必要である。

1枚の板を見せて説明をし入荷した時点で、見た板材と違うと主張され

たことが何度かある。こんなに節はなかった、色が違うと様々で、

プリントでない限り同じものはないと説得するのにも時間がかかる。

言われたままに取り替えようものなら収拾がつかない。「節も少ない

などと言わないほうがいいですよ」と付け加えた。節ありの価格で

販売していますが、もしも無節の材が取れればラッキークジに当たった

ようなものです、くらいに留めることをすすめた。

 この試みには、山に入り立木からの家づくりは、都会の人がより山を

身近なものに変えるきっかけにしたいとの思いもある。

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 かつて家造りには地域の人が共に喜び、つくり上げていくスタイルが

あり、それ程大変で誇らしい一世一代のイベントであった。

 街に暮らし、バラックに近い市営住宅に入居する時ですら父親が

輝いて見えた。子供の成長に伴い父が床板を貼り、手造りの建具が

取り付けられた。便利でもなく美しくもなかったが、寡黙な父が体で

伝えたことは大きい。15年間過ごしたその家は今も夢に登場する。

 現在はといえば、言うまでも無いが、流れ作業的に多額の融資を

受け、瞬く間に家が建つ。全くのパズル方式で間取りが決まる、

その瞬間が家づくりに本人がかかわれる唯一の時である。

共に棟が上がったことを祝うでもなく、祭りも文化も全て削ぎ落とし

簡略化された住まいが子供達に何を伝えるのだろうか、意識の中

にすら残らないのでは…。

 今の住まい造りに欠けていることは何かと考えた時、耐震性で

なければ耐久性でもなく、この家に何を求め、何を伝えたいか、

一番大切な行為が忘れ去られているように感じてならない。

 過去にある家族に同行し、京都の北山まで新築の床柱探しに

行ったことがあるが、16年経った今も折に触れその話題が上る。

それは床柱を通して家族全員がこの家づくりに関わったという

観念があるからではないだろうか。願わくば板の1枚なりを貼る

もよし、床板を米ぬかで磨くもよし。

 6~7年前に事件を起こした青年が20歳を迎え当時を振り返る。

「母親は母を演じ、自分は息子を演じていたような気がします」

幸せを象徴するような真新しい家が建ち並ぶが、心も裸にでき

ないまま生活を演じ続けるほど不幸なことはない。

 この家で、家族と共にどんな未来を築こうとしているのか、

想いも含め「この柱にはね…」から息子に語って欲しい。

 ところで、林業に関わる多くの人に同じ問いかけをしたい。

「あなたの子供に山を、木を語っていますか…」

 

おわり

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