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坪単価この不可思議なるもの《山林》

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(山林 2003.3掲載) 坪単価 この不可思議なるもの

「ところで、坪単価はおいくらですか」

 建築の会話に必ず出てくる質問である。聞いた後も「アアそうですか」で

終わる人も少なく、内容も聞かないで「高いですね」と続く。

 セミナーや見学会などあらゆる場所で「坪単価で価値判断するのはやめ

よう」と訴えている。坪単価で比較が出来るのは、建築工法などの選択肢

が少ない時代にあって、工務店なり大工がその地場で同じような形の家を

建てる時、発注する目安として使われてきた言葉である。

ハウスメーカーが住宅展示場という同じ枠内で、価格協定を設けた上に立っ

て、メーカー同士の比較判断であればまだ頷ける。ガラス一つをとっても

ペアなのか、網入りなのか、ピアノ線入りなのか、選択肢は多い。要望も

多様化した現在にあって、坪単価で判断するほど馬鹿げたことはない。

 住まいづくりに際し「坪単価」はあくまでも予算組みの目安に過ぎないが、

建築関係者でさえ「高い、安い」を平易に口にし、いわんや生活者は比較

判断へと移行するから怖い。

 震災後の復興で坪単価100万円の家を建てたと言えば、殆どの人は

「ホォー」と溜息をもらす。ところが一階、二階合わせて延面積14坪で

1,400万円と聞けば妙に納得するからおかしい。最近、現場見学会でも、

この家の建築費は総額○○円です、と敢えて坪単価を公表しない。

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 ハウスメーカーなどには本体価格が設定され、オプションという足し算形式で

個々の建築費を算出する。一般に公表する坪単価は本体価格のみを延坪で

割ったものであり、総工事費を割ったものと比較にはならない。

 坪単価による価格競争は、ともすれば見てくれ重視に追随し、節も多く扱い

難い国産材を片隅に追いやったきらいはないだろうか。

 1月に築25年の中古住宅(延面積120㎡)の改装を依頼された。殆どの壁、

床、天井、キッチン、便所2箇所を全て取り替え、間取り変更、サッシ2箇所

新設、建具取り替え、バリヤフリーにと要望は盛りだくさんである。

 予算はと伺えば、涼しい顔で300万円を提示されるが、一般的な建材で

仕上げても予算の3倍はかかりそうな内容である。

 その上、7件の工務店に合い見積もりを取っていると聞けば、どこであって

も逃げたくなるが、どうやらテレビの増改築番組の影響があるようで、

その程度の予算で出来ると判断されたようだ。ゴールデンタイムのテレビ

放映であれば大抵の工務店は無理をしても請けるだろう。

 増改築は新築以上に判断が難しく、既存建物をどこまで補強するかに

よっても違ってくる。

 予算内に収めるために現場監督と大工がもめる事もある。予算内に収

めることと経験から割り出した60歳代監督の提案する補強梁が気に入らず、

若い大工は既存梁を取り外し4m間に39㎝成の杉を入れ替えると主張し、

真っ向から衝突した。どちらも引かず判断を委ねられた。

 経済性と工期と建物をもたすという観点から考えればなるほど監督の

主張が正しかったが、若い大工の主張は違っていた。

 補強梁を既存梁に添え、ボルト2本を堅結する手間を考えれば、

取り替えた方が良いこと、今まで国産材を使い骨太の住まいづくりを

続けてきて、それを信頼してこの建築を依頼されたお施主さんがいる

と語った。

 この大工は7年前に在来軸組の大工を志願し、傘下の棟梁の下で

修業をしているが、技術だけでなく冷静な判断力に大きな成長を感じた。

どちらを選択したかは言うまでもないが、入居後の建主の便りに、

その梁が現場に持ち込まれた時の驚きと感動が綴られていた。

 驚くことに、前述の増改築に300万円の予算で施工するという

専門業者が現れたと聞いた。長引く不況で無理な工事も請け負う

施工者は多いが、どんな方法でするのか覗いてみたい。

 他社で取った見積書を見ただけで「高い」と提言し、施工内容も

熟知せず安価に請け負う業者も増えていると聞くが、自由競争で

あれば文句のつけようもない。

 30坪で2階建て、瓦葺、竹小舞に土壁仕様を1,700万円で請け負

った業者が、上棟後大工への支払いが滞り、工事はストップしたまま

になっている。

建主の説明に依れば、坪55万円(他者の合い見積り2,300万円)で、

安価に土壁の家が出来ると言われ契約したが、外構工事を含め

1,400万円の支払をしているためどうにもならないという。

 経験からすれば他者の見積り額が妥当と思われる。不動産に掘り

出し物はないというが、安価なものにはそれなりの理由がある。

失敗しないためには若い大工のような冷静な価値判断を養うことであろう。

 

 

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