何を使えばそれほど安価なお弁当が作れるのか、オフィスビルの街頭に並ぶお弁当を見る度に不安を覚える。事務所スタッフのほとんどは弁当を持参する。感心なことに男性スタッフのうち共稼ぎ組は、夫人が造り置きしたおかずを自分で詰めてくる。それなりに栄養バランスも考えているようで微笑ましい。
「子供がつくるお弁当の日」を提唱する竹下和男さん(綾川町立綾上中学校校長)の話によれば、3歳までの幼児には味覚は無く、3歳~9歳の間に味覚は発達を続け、それ以降、味覚は発達を止めるという。学生に質問したところ3割程度しか苦い、渋いが解らなかった。味覚の発達していない3歳までに、地元の旬の野菜などを煮て食べさせれば、渋味や苦味を安全な食べ物と認知し、大切なものとして受け入れると聞く。
年齢を問わず人は誰かの役に立ちたいと願う。一切親が手伝わないで子供なりの知恵と工夫でお弁当が出来れば、役立つことが出来た達成感と、大きな自身にも繋がるというもの。
5月に友人の招きで、ピクニックに同行した。そのお昼に食べた手づくりのおにぎりの味が忘れられない。ことさら特別なものではなかったが、新鮮で懐かしく際立って感じられた。
竹下和男さんは年齢を問わず、まず両親にお弁当をつくって下さいと提案されているが、6月15日の父の日、高価なプレゼントもいいが感謝を込めた手づくり弁当はどうだろうか。
もはや台所は主婦の城に非ず。新築、リフォームに関わらず、キッチンに対面式やアイランド型を選択する家庭が多いのも、夫や子供と一緒に料理を楽しむスタイルが定着しつつあるからかもしれない。
家の隅っこが定位置だったキッチンが、リビング寄りになっているのも頷ける。食事は家族を繋ぐコミュニケーションの重要な場でもある。高齢者に男の料理が人気らしいが、大きな魚を捌けるおじいちゃんも魅力的である。
今や「子供がつくる弁当の日」を実践する学校は全国で1400校近くに上る。せっかく小中学校で興味を覚えた料理も、続けなければ意味がない。家族の記念日にそれぞれの得意料理で腕をふるうも良し、キッチンを通して家族の絆を深めるチャンスだ。休日を利用して料理人だった父が造ったバッテラと、豚の角煮は30年経った今も鮮明に舌に生きる。
(「木族」2014年6月号より)