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国産材コラム

五感を育む住いづくり《山林》

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(山林 2003.7掲載分) 五感を育くむ住まいを 

 家造りはどこまでエスカレートするのだろうか。

 シックハウスの対応策として、7月より居室には基本的に24時間対応の

換気扇の設置が義務付けられる。1時間に部屋の空気が半分入れ替わる

機能を有するものとある。 内装の使用制限もあり、今までFCO、EOと表示

されていた合板などはF☆☆☆となり、居室面積の2倍までの使用しか認

められない。4、5年前に一番利用の多かったFC1,E1合板は床面積の30%

までの使用となり、当然のことながら各建材メーカーは使用制限のない

F☆☆☆☆(ホルムアルデヒドの放散量が0.005㎎/㎥・h)の認証を受ける

ことに躍起である。 内装制限までは理解できたとしても換気扇設置の義務

付けは如何ともしがたい。

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 1時間に居室の半分の換気能力の根拠が業界紙に載っていた。窒息しない

ための一人あたりの空気量は1時間30㎥、4人家族で120㎥必要である。

延べ面積100㎡(天井高2.5mとして)の空気量を計算すると250㎥となり、

120÷250=0.48と、約半分ということらしい。

 ついでに窓を開放すればどれくらいの換気が出来るかということであるが、

2m×2mの窓に風速2mの風が吹けば1秒の風量は8㎥になり、たったの

15秒で1時間あたり4人に必要な換気量が確保できる。

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 可能な限り自然素材を使った家づくりに取り組んでいるが、土と木と紙だけ

の家であっても換気扇は免れないという。引渡し後に搬入する家具などから

の化学物質を懸念してとのこと。

 唯一、容認されるのは木造在来工法で、尚且つ、外部建具を木製建具

(輸入木製建具など気密性の高いものは含まない)としたものとある。自然派

志向といえども今時高価な木製建具を望む人は少ない。高気密・高断熱に

24時間換気扇回しっぱなしの居住空間が果たして快適といえるだろうか。

窓があっても開けない人もいれば、換気扇を回さない人もいる。むしろ経済

性から考えれば後者が多い。そこまで言うのなら換気扇を回さない人に

罰則でも設けるのだろうか。

 それでも説明会に何度か参加するが「ハイハイいらっしゃい」とばかりに

換気扇メーカーのパンフレットが並ぶが、限られた予算枠から又、出費を

強いることになると思えばあまり喜ぶ気にはならない。

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 もともとシックハウスは簡便に、より安価に、早く多くを求め過ぎ、新建材

づけの住まい造りに走りすぎたことに始まる。そこに省エネの観点から密閉

型の家造りが拍車をかけた。現在もその方向があまり変わっているとも思

えず、相変わらず価格競争が止まることをしない以上、今度はその皺寄せ

がどこにいくのか不安になる。

 住まいとは子供を育て、家族の日々を癒す場である。成長期にあって

五感は生活の中で自ずと養われるもの。庭の花を美しいと感じる心も、

小鳥の声や雨だれの音、木や土の香り、通り抜ける風の感触など数え

ればきりがない。その中からものの哀れも慈しみも、危険を察知する

能力も培われる。

 化学物質はごめんだが、全て機械力で管理された快適さに何を委ね

るのだろうか。

マンション生活で外出時にあまりの外気温との差に面食らうことがしば

しばある。雨音が聞こえず外に出て雨に気付いた経験はないだろうか。

 住宅建材ばかりでなく、衣服やカーテン、様々な生活用品まで化学

物質が含まれるとあっての換気扇設置の義務付けと思われるが、

あてがいぶちの住まい造りが、親として一つ一つ吟味し選択し係わる

はずの人間の巣を如何に変えてしまったことか。

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 木造住宅の耐用年数は25年と公然と言い切る建築士がいてビック

リしたことがあるが、構造見学会で「この家は100年持ちますか」と

いった質問を受けることがある。

 「何の手入れをしなくても木の育った年齢と同じ50~60年は持つが、

あとは生活する人がどれだけの愛情を持ってその家に関わるかです」

と答えることにしている。

今回の換気扇設置は取り敢えずの愛情ということか…。

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