活きる伝統、生まれる粋
もう夏ですね。夏が来るたびに、幼いころ、夏休みに遊びに
行った田舎を思い出します。私の田舎は、周囲をグルっと360度
山に囲まれていて、「自然しかない」ところなんです。
家は、土壁の平屋建てで、土間にかまど付きのキッチン、畳の間
・縁側など昔の家を絵にかいたような間取りです。
お風呂は離れにあって、薪で焚いていました。また、家の周りには、
十分すぎるほどの土地があって、スイカや野菜などがたくさん育って
いました。
近くの川で魚をとり、それをさばいて食べさせてもらったり、畑で
採れたスイカを井戸で冷やして食べたり。
気の利いたクーラーなどはないけれど、室内の建具をすべて解放させ、
風を通すだけで涼しかった。夜になると、家の前で綺麗な月を見ながら、
花火をしました。
自然を身近にかんじることができ、とても楽しい経験でした。親に
感謝ですね。
時々、一人前に行き詰まったり、嫌なことがあると、自然を感じたく
なります。それはやはり、幼いころのいい思い出を無意識に要求して
いるんだと思います。ただ、私が持っている感受性は、自分でも武器の
ひとつだと思っています。この武器は間違いなく、田舎で体験した
ことが要素になっています。
私も都会で生活するようになり、都会の便利さに慣れ、また急速に
発展する技術のおかげで、買い物もネットで済ましてしまうくらい
便利な時代になりました。
そんな今の便利さを得る一方で、見失いかけているものもあります。
便利さ・使いやすさが先行しすぎて無機質なものを選択し、本質を見ず、
表面的な美、一過性の美に着眼し「劣化すれば取り替えればいいや」と
いう傾向にもあるように思います。「いいものを長く使って経年変化を
楽しむ」そんな余裕も欲しいものです。
今回の住まいづくりでは、昔のように竹を編んだ土壁をプランニング
しています。「土壁は夏涼しいが、冬寒い」というイメージが強いかも
しれません。昔の家は隙間があり、その上、今ほどの断熱性がないと
いうのが原因ですが、今の時代の技術を取り入れることで、問題は
解決できます。
井戸・薪ストーブ・畳・縁など昔ながらのものと、ペアガラスなど気密性
・断熱性を取り入れた住まいになると思います。楽しみです。
昔の物のいい部分を残し、現代の技術でカバーする。現代的、古典的と
どちらかの選択ではなく、昔と今をうまく融合することで歴史は生き、
いいものが生みだされていくのではないでしょうか。
(「木族」2013年8月号より)