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国産材コラム

木の香りに心を傾けて・・・

いい木、いい家、いいくらし

■聞香(もんこう)

インドネシアで家具屋さんの並ぶ通りを歩いていると、木端(こっぱ)が詰められたガラス瓶の並ぶお店を見つけました。聞けば東南アジアそれぞれの地域で得られた貴重な香木を量り売りしてくれるお店だそう。

昔、正倉院に納められている蘭奢待(らんじゃたい)の匂いを再現したとするお香を嗅いだ時、あまりにも『作られたいい香り』に、こんな安直な匂いはしないはずと思い、いつか本物を嗅いでみたいと思っていた私は、早速蘭奢待のルーツを検索。翻訳ソフトと身振り手振りで、同じ種類、予想される同産地の香木を手に入れることができました。

帰国して早速、専用の炭の上に銀葉(ぎんよう)を乗せて、香木を置く、いぶされた木っ端から油がジワリと染み出して煙が上がり、心を静めてグッと香りに集中する。思った通り、お土産のお香とは全く違う。ほのかに甘いような、少しツンとする匂いもあって、さらに時間が経つと肌の匂いのような人懐っこさがあって・・・。と、とにかく独特な香り。これだけ香りが溢れた現代に、これ以上の香りはいくらでもあるのだろうけれど、確かにいつもとは違う不思議な香りがそこにあり、それがなんとも魅力的。うかがうに、こうして香りを楽しむ事を聞香と言い、嗅ぐではなく、気持ちを傾けて楽しむことだそう。なんと素敵な言葉。

そういえば、若いご夫婦の依頼でお風呂の壁を桧板にするリフォームを行っています。蒸気の上がった浴室で濡れた壁面からほのかな桧の香りが上がり、目をつぶってその香りを楽しむ。嗅ぐではなく、きっとこれも聞香。思い返せば玄関を開けた時の杉板の香りや土間の微かな土の匂いなど、本来日本の家には素敵な香りが溢れていたような。心を傾けて感じる本物の香りが残る家を残して行きたいと改めて感じた。

 

(建築士事務所民家・設計部=中津真)

~2025年木族6月号より~

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