国の天然記念物に指定されている奈良公園のシカにボーガンで矢を放ち、死なせた者のニュースはまだ耳に新しい。さきごろ主犯に懲役6月(求刑・懲役10月)、もう1人には懲役6月執行猶予3年(同6月)の判決が出た。
一方、環境省は4月に施行された改正自然公園法に基づき、シカの食害から生態系を保全するため、知床国立公園と尾瀬国立公園で、生態系の維持回復事業(シカの駆除)を実施することを決めた。湿原や高山の貴重な植物を守るためシカの駆除を国の施策として実施するのは初めて。
北海道庁によると、知床も含む北海道東部のエゾシカの生息数は、93年度末の20万頭から、08年度末には26万頭に増えたと推定。尾瀬国立公園は、環境省によると、98年調査に比べ09年には3倍以上に急増したとされている。
さて、普通の山でもシカは増えている。このためせっかく植えたスギやヒノキの若芽、甘皮が食害に遭うという話は枚挙にいとまがない。
今後、国立公園や国定公園(柵で囲われてはいない)で駆除され始めれば、追われたシカはどこへ逃げる?近くの人工林でスギやヒノキを食害する可能性を考慮しているだろうか。
生態系の保護はもちろん大切だ。ただ、被害が深刻なのは原生林や国立公園だけではない。いま少し視野を広げてはいかが?
(「木族」2010年8月号より)