【私の小さなファミリーストーリー】
父は青森県七戸出身の自他共に認める田舎者で、大学への進学で東京へ出たものの仕事が上手く行かず、人づてに大阪までやってきてついに母の勤める会社で二人は出会ったらしい。
地味な人だからお金はしっかり貯めていると思うよ、と同僚からも結婚を勧められた母だったけれど、婚約後蓋を開けてみれば、いったい何に使っているのか父には一銭の貯金も無く、父はゼロからのスタートじゃないか。と母に一言、母は泣きながら騙されたと実家に電話を入れたそう。
祖母は若い二人のことだからと理解を示していたが、祖父は厳しく、そんな田舎者に娘をやれるかっ!と、父が母の実家へ結婚の申し込みに行く日も断る気でいたらしかった。
祖父は大阪で杜氏を務めており、菜園づくりも趣味で、部屋にはお庭で採れた瓢箪で作ったお酒の入れ物がいくつも飾ってあった。結婚の挨拶に向かった父が、気まずい空気の中で、必死に話題を探そうと部屋を探して見つけたのもその瓢箪だった。
「瓢箪といえば豊臣秀吉でしょうか。彼があれだけの出世が出来たのも、ねねさんのおかげだそうで…」と得意の歴史の話に重ねて、いつか出世し、母には不自由はさせない思いである事を暗に伝えたそう。その話を聞いた祖父は、ころっと落とされてしまい、めでたく今の私まで家系図が続くことになった。
これが祖母から聞いた私の両親の思い出話で一番好きな話。先日、従妹の結婚式に出席した際ふとその話を思い出して、着物の母に「秀吉の奥さんやね。」と言うと、何を勘違いしたのか「わてが惚れた男がたまたま、、、」と極道の妻たちのセリフを披露してくれた。
いい両親の間に生まれたなと最近やっと思えるようになりました。
(「木族」2022年6月号より)